「何を泣いている」

 久坂の死を知らされて『犬死だ』と応えてから、ひとりになったそこで、僕はぼろぼろと泣いていた。だから、泣いている自分自身に向けて僕は言う。

「何を泣いている、晋作」

 久坂の死など、今更なんだ。

「止められなかったのはお前だろう、畜生にも劣る」

 自分をそう叱咤するように言い聞かせれば、涙が止まる。いや、枯れたのだと知っていた。
 こんなに短い涙で、僕はあの男の死を受け入れるのか。

「すぐに行く。全てを捨ててでも」

 どんな場所に堕ちてでも、と僕は残った水滴を拭って誓った。





 呼吸が苦しい。咳に血が混じる。それでも僕は止まらなかった。
 ただ、死場所が欲しかった。そこが戦でなければ許せなかった。
 だから。

「何を泣いている」

 自身の声に、誰かの声が混じった。
 今更止められなかったのも、止まらなかったのも、何にも劣ると思いながら。

『何を泣いている、晋作』

 誰かの声と、赤い血が、ひとりの部屋の布団に落ちた。


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2023/4/20