六道輪廻の五道に堕する

「信じていません、そもそも」
「でしょうね」

 今日、先生に言われたことを思い出しながら、六道輪廻、という言葉を頭の中でもう一度考える。

「どこにも行く宛などないではないですか」

 僕の言葉に、先生はふと首を傾げる。

「死後など信じていません。それにしても、どこにも行く宛もなく、僕は、先生は人道に堕ちたと?」

 僕の問に先生はどこか驚いたように、それでも何か覚ったようにふと笑んだ。

「人間道を、君は否定するのですね」

 ええ、とだから僕は答える。

「六道で比較するのもなんですが、畜生よりまともな人間なんざこの世にいない」
「まあそれも、そうかもしれませんね」

 先生は一言そう言って、今日は終わりだと告げた。僕は硯と筆を片付けた。





「畜生よりも、天人よりも、修羅も、地獄も、餓鬼でさえ、それよりもまともな人間もおらず、またその逆もない」

 天人であろうとも、修羅も、地獄も、餓鬼でさえ。
 先生すら例外でないのであれば、俺は六道など、輪廻など信じはしない。
 死後など、信じはしない。

「先生は死んだ。仇を討つのに泣いているほど俺は馬鹿ではない」

 俺ははっきりと言って刀を腰に差す。

「今、行きます、先生」

 一言言って立ち上がった。

「人間道に堕ちたというのなら」

 残る五道を踏みにじってでも、そのどこに堕ちようとも、貴方の願いを叶えてみせる。


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2023/4/20