六道輪廻の五道に堕する
「信じていません、そもそも」
「でしょうね」
今日、先生に言われたことを思い出しながら、六道輪廻、という言葉を頭の中でもう一度考える。
「どこにも行く宛などないではないですか」
僕の言葉に、先生はふと首を傾げる。
「死後など信じていません。それにしても、どこにも行く宛もなく、僕は、先生は人道に堕ちたと?」
僕の問に先生はどこか驚いたように、それでも何か覚ったようにふと笑んだ。
「人間道を、君は否定するのですね」
ええ、とだから僕は答える。
「六道で比較するのもなんですが、畜生よりまともな人間なんざこの世にいない」
「まあそれも、そうかもしれませんね」
先生は一言そう言って、今日は終わりだと告げた。僕は硯と筆を片付けた。
*
「畜生よりも、天人よりも、修羅も、地獄も、餓鬼でさえ、それよりもまともな人間もおらず、またその逆もない」
天人であろうとも、修羅も、地獄も、餓鬼でさえ。
先生すら例外でないのであれば、俺は六道など、輪廻など信じはしない。
死後など、信じはしない。
「先生は死んだ。仇を討つのに泣いているほど俺は馬鹿ではない」
俺ははっきりと言って刀を腰に差す。
「今、行きます、先生」
一言言って立ち上がった。
「人間道に堕ちたというのなら」
残る五道を踏みにじってでも、そのどこに堕ちようとも、貴方の願いを叶えてみせる。
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2023/4/20