々と血を流す彼を『私』は知っていた。知っていたのに止めなかったのだ、とスカサハはそのエーテル体のクー・フーリンを見つめて思った。

「なに、俺の顔になんかついてる?」

 師匠、と続けられて、それからああそうか、私は彼の師だったのだ、と回らない思考回路でぼんやりと思った。
 まだ死んでいないのに、影の国から直接座に登録されて、サーヴァントという形で現界したそこで、マスターと呼ばれる存在に「カルデアの中の案内は知り合いのほうがいいだろうから」と言われて、クー・フーリンは師であるスカサハを案内していた。
 その彼女がどうにもぼんやりと、こちらの話を聞いているのかいないのか分からない状態なのは分かっていたが、まあ案内しようがしまいがかまわないだろうと思っていたので気にしないでいたが、食堂について説明していたら見ていたのはテーブルでも厨房でもなく自分の顔だった、というのはなかなか看過しづらいことだった。

「いや、お前は英霊なのだな、と」
「え、うん」

 殊更に確認するように問われて、誰もいない食堂の椅子に腰かけたスカサハに倣うように、彼も座る。何か話したいことがあるのだろうと思ったからだった。

「私は、ほとんど記憶の断絶もなく肉体もほとんど連続性を持ってここに来た。それは人理の焼却という未曽有の自体ゆえだと把握している」
「あー、うん。だいだい分かった」

 スカサハの訥々とした言葉に、彼は彼女の言いたいことがだいたい察知できた。それはなぜだろう。聖杯戦争に以前にも参加したからだろうか。いや、違う。

「アンタは死の実感がないんだ」

 その言葉にスカサハの美しい瞳が見開かれる。そんなふうに驚いた顔を見るのはいつぶりだろうとクー・フーリンは場にそぐわず思った。

「ああ、そうか」

 納得した師に、この話を長く続けてはいけないと思っていた彼は立ち上がろうとする。それに彼女は言った。

「そうだ。私は私の死を知らない。今もって私を殺しうるなにかも、私を死に至らしめる何かも知らない」

 その言葉に、今度はクー・フーリンがまじまじと彼女を見据える。
 殺してやりたかった。死なせてやりたかった。
 その槍を彼女から得た時から、この槍で貫くべきは彼女の心臓なのだと知っていた。
 知っていたのに、できなかった。

「オレは欲が深すぎた」

 ふとつぶやいたら、スカサハはその彼の瞳を見つめた。

「私は知っていた。お前が赤々と流す血を。
 私は知っていた。その血の赤さがお前を終わらせることを。
 私は知っていたのに止めなかった」

 それは後悔だろうか。
 自身の死を見通したその女の赤く美しい髪を彼は撫でた。


 赤い槍が貫くべき悔いを残したままの二人は―――




2019/10/15