青空を見たのは何日ぶりだろう。蝮は梅雨明けの空を見上げてそれから、今日なら夫の白衣を外に干せるな、と思いながら洗濯物を入れたかごを持って縁側からもう一度空を見上げた。
「梅雨も終わりか」
ぽつりとつぶやく。自分の生まれた日は梅雨のただなかで、それもあってか雨が好きだった。雨がいろいろな音を吸っていくこと、音を吸っていくこと、静かな日々が好きだった。
「蝮!なにしてん!?」
「なにて、洗濯や。そういうあんたこそなにしてん?」
仕事は?と自然と問いかける。雨について静かに考えていた思考は、唐突に掛けられた、詰所にいるはずの夫の声で中断させられた。
「午後から急に非番になってん。それより、無理したらあかんて言うてるやろ」
「いや、いっつもしとるわ、このくらい」
そう言った蝮の手から洗濯籠を奪い取れば、蝮はぱちくりと片目だけになったそれを瞬かせた。
「お嫁さんってええ響きやなあ」
「いきなりなんやのあんたは」
家事をやる蝮、自分の分の洗濯物を当たり前に干してくれる蝮、というのを恋愛ゲームか何かのエンディングのようにしみじみ柔造は思った。好きだったことに間違いはないが、こうして伴侶となった彼女を目の当たりにするたびに幸せな気分になることは許されてしかるべきだと思う。
「洗濯物、やっと外に干せるようになったんやから。ほら、おてんとさん見るの何日ぶりやろ」
そう言って蝮はもう一度青空を見上げる。つられて柔造もその空を見上げた。
目に染みるような青空と太陽。
そうやってその空を見上げる男を見ながら、蝮は思う。
太陽のような男だ、と。
ずっと思っていた。志摩柔造は太陽のような男だ、と。自分にとって好ましいのは雨だから、曇天だから、きっと手の届かない太陽のような男だ、と。
その男が自分を救い上げてくれたことは、今でも奇跡みたいだと思う。
「雨が好きやってん」
「うん?」
「でも今はお天道様も好きや」
お前が好きだと素直に言えない愛しい妻に、柔造は笑って口づけた。
2019/10/15