色の電灯がコートを照らす。もうそんな時間だったろうか、と杏はふと思う。ボールが見えない時間じゃないはずだ、と。
 秋の日暮れは早い。それももう深まった秋だ。

「早いな」

 先に口に出して動いたのは、ボールを持ってサーブを打とうとしていた柳だった。そのままボールを持ってネットに歩いてくるので、杏もネットの方へと歩み寄った。

「もうやめておくか。怪我なんかしていられないしな」
「そうですね」

 ポーンと一度だけ柳がスイートスポットでボールを跳ね上げる。それに杏はふふっと笑った。





 互いが別れる駅までの道にも、もう電灯がついていた。だけれど、まだ日は少し残っている。もう少しだけ沈み切らない太陽が、空を橙色に染めていた。


 大学生になった二人にとって、テニスは趣味だった。そんなあっさりと言えるものではない気もしたけれど、中学、高校と遮二無二やってきたそれではない。
 決別はどちらもずいぶんあっさりしていた、と今になると二人とも思う。
 嫌いになったわけじゃない。だけれど、永遠に続けることなんてできない。
 決別はどちらもあっさりしていたのに、そのテニスとの別れを互いに詰ったことがある。自分のことを棚に上げて、と今になれば思う。だけれど、自分のことを棚に上げるからできたことなのだ、とも思う。


「テニスをやめたって、全部終わりってわけじゃないのにね」

 そう杏が言ったから、自分が全く同じことを考えていたのか、それとも考えを読まれたのか、と柳は少しだけ驚いて、だけれど微笑んで返した。

「そうだな」

 別れはいつも唐突で、なぜ続けないのかと言う人もいた。
 彼女もかれもそうだった。だけれど、今はそれを受け入れるのがその相手だったことは幸せなことだと思う。
 西日が杏の顔を照らす。昔のように日に焼けてはいない彼女の顔が、橙色に染まった。

「じゃあ、またね」
「ああ、また来週」

 またねと次の約束をできる。
 別れは永遠ではないと、今の二人は知っていた。




2019/10/15