黄色のラッピングに風間は一瞬呆けたようにしてから、それを差し出した女性を見た。
「宇佐美?」
「はい、風間さんも」
「は?」
意味が分からず、だがそれを受け取る。
「トリックオアトリート!」
宇佐美がそう大きな声で言うことで、やっと風間は事態を把握した。10月の終わり。世間はハロウィンの季節だった。
「まだ少し早いんじゃないのか」
その黄色のラッピングを見ながらカレンダーを見る。まだあと数日あるはずだ、と思ったからだった。
「そうなんですけど、本部に来るのたぶん今月は今日がラストだから、配って回ってるんです」
風間隊が最後だったのに風間さんいないんだもん、と言って彼女がやってきたのは、風間隊の隊室だ。今日は訓練が入っていて、他のメンバーはみなそれぞれ違う場所にいた。珍しいこともあるものだ、と風間は他人事のように考えた。
「そういう訳で、お菓子あげたからいたずらはなしですよ!」
ふざけたように言う彼女に、本部に来るのは今日がラストなんだからいたずらのしようがないじゃないか、とふと風間は言い返しそうになってやめた。
宇佐美が本部に「来る」。
とてもおかしな響きだ、と風間は今になって思う。
失ってから気づいたのか、と言われればそれまでだ。隣にいるはずだった少女は、今はもうここにはいない。例えば自分が言えばどんな非道なことだって彼女はこなしてみせただろう。だけれど出来なかった。それは互いにとってのマイナスだと思った。
思った。
嘘をつくなと彼の中の声が言う。
怖かっただけだろう、と。彼女を守り切れないのが怖かっただけだろう、と。
今なら守れると思ったことがある。だけれどそれはもう遅い。あの時、彼女を手放すと決めた時に守れなかった自分を呪えと自分自身をせせら笑う。
「だが今なら」
「はい?」
今なら守れる、今なら助けられる、今ならお前の苦悩を知っている。
その膨大な『今』という不確かな時間の集積を、彼女にぶつけることが、だけれど今もって彼にはできなかった。
「菓子、ありがとう」
「はい!」
律義に礼を言えば、嬉しそうに笑う宇佐美が応じた。
今は、それだけでいいと思いながら、その菓子を風間は握りしめた。
2019/10/15