の髪が彼女を誘う。コートの中で、軽く結えた紫の髪が揺れてそれから強烈なダンクシュートを決めた。
 荒木はそれを、部屋のテレビ見ていた。プロのバスケットの試合全部なんて、リアルタイムでまともにやるのは専門チャンネルくらいだ。仕事での監督業を加味すれば、専門チャンネルに登録して、金を払ってみるに値する試合ばかりだと思っていたが、教員の仕事も膨大なんだぞ、とうそぶいたことがある。

「ほら、そこだ」

 荒木は、大きな体で相手をブロックしながら、そうでありながら俊敏な動きでボールを奪い、またしてもシュートを決めた紫の髪の選手に一人拍手を送っていた。
 その紫の髪の選手は、その姿を真後ろで、彼女を抱えるようにして座って見ていたのだが。

「ねーまさ子ちん、俺ここにいるよ?」
「うるさいぞ、紫原。ああ、落とした」
「ちょっとさぁ、それ録画でしょ?」

 そうなのだ。リアルタイムでやると言ったって、リアルタイムで見ているわけではない。録画したそれを、わざわざその当人が遊びに来ているそこで見始めたのだから、荒木のそれは照れ隠しにしたってやりすぎだ、と紫原は思う。
 たまのオフ。恋人になってくれた彼女の部屋に来たらこれだ、と、画面の中の自分に嫉妬して、彼は近くにあったリモコンでそのテレビを消してしまった。

「あ、何をする!」
「何するってそれは俺のセリフでしょ。恋人が遊びに来たのにこれはないんじゃない」

 こいびと、と荒木はつぶやき、それからクッションにぎゅうっと顔をうずめた。

「三十路女をからかうな」
「からかってないから。ていうか恋人って言葉にすら慣れてないなら、今日俺が来た理由ってどうなるわけ?」

 そうなのだ。今日この紫の髪の男が「遊びに」来たのはただオフだからじゃない。メールに書いてあった、なぜここに来るのか、という理由に荒木はやはりクッションから顔を上げられなかった。

「結婚式の準備、いい加減するからね」
「うあ……」

 意味不明な返答をした荒木を紫原は後ろから抱きしめる。
 顔の横に彼の長い紫の髪が垂れて、荒木はそれを羞恥心を隠す様に思わず引っ張った。

「いたっ、何すんの!?」

 この紫に、あと何度惑わされるんだろうと思いながら。




2019/10/15