々しいとリコは舌打ちする。学校帰りの道にいた今吉翔一という男が、だ。白々しい。

「ひっさしぶりー」

 ほら、その言葉だって白々しい、と思いながら、リコはそれでも応じる自分はきっと甘いのだ、と思った。

「お久しぶりです。まだ忘れてなかったんですね」
「ひどっ!」

 ここ一年くらい、ぱったりと、あの何度も何度もアタックしてきた男がいなくなって寂しかったなんてことは絶対にないが、どうせ飽きたんだろうと思っていたからこうして待ち伏せていたようにここにいた男に、じゃあ私たちの関係は続いていたの?とふと思った。

「続けたかったわけじゃないけど」
「なーにが?」

 おどけたように言う男を、リコは通学鞄でぽこっとぶった。

「忙しいんです」
「せやろなあ、受験生」

 今吉の言う通りだった。吐く息が白くなるような季節、受験、卒業。忙しいの一言に込めた、言外の「だからかまわないで」も全部くみ取っていることを知っている。
 それを知るくらいの時間があったのだ、と思ったら、この一年彼が来なかった、来たってそれは偶然のようなそれだったことにリコは思いを馳せる。たぶん、自分だって知っていた。

「お疲れ様」

 そう言って、普段からは考えられないほど優しく微笑む今吉に、だって、知っていた、と思ったら、ぼろりと涙がこぼれた。

 あんなに泣いたのに。
 あんなに惜しんだのに。
 あんなに、あんなに、あんなに。

 まだ自分の中から「泣く」という衝動が消えていなかったことが驚きだった。

「じゃあ、あの日に来てよ」
「そりゃ無理や。ワシには誠凛を応援できん」
「ウソ。あなただってやめたくせに」

 こんなの八つ当たりだ、と思いながら彼女は言い募る。その言葉に嘘はない。互いに嘘はない。

「バスケットをやめるなんて」

 考えたこともなかった。自分は、ではない。誰かが、だ。
 自分はいつだって、好きな時にバスケットを楽しめる。選手ではないから、別に監督業じゃなくたって、関われる。だけれど選手は。
 ウィンターカップですべてをやめると言われてしまったら、私はどうすればいいの、と迷子のようにリコは思った。思っていた。
 だから、堰を切ったように涙がこぼれる。仲間のために泣いた涙はもう涸れるほど泣いた。だからこれは、八つ当たりだ。

 白い。
 空白。

「しゃーないけど、それを『仕方ない』で済まさんから、相田さんが好きなんやろなあ」

 その空白を受け入れた男もまた、バスケットをやめたのだ、という小さな痛み。

「相田さんのせいやないよ」

 言ってほしかった言葉はそれだろうか。
 違うのに、今はそれでよかった。
 涙がとめどなく流れて、だから彼は、仲間と私の最後のバスケットを邪魔しないためにこうしてすべてが終わってから来たんだ、と思ったら、リコにはその空白を埋めるような言葉で良かった。

「忘れないで」
「うん。バスケットが好きや」
「それだけで、いいから」

 吐く息が白くなっていく。
 冬。
 すべてが終わっても、まだ日常は続いていくと、彼を見てリコは思った。




2019/10/15