彼女との記憶を彩るのは、赤い花のような気がする。
 彼女との惜別に送る花は、青い花のような気がする。
 彼女との再会に縋る花は、白い花のような気がする。
 何時かの君に花を贈ろう。
 その、全ての色を混ぜてしまった花しか俺には用意できないのだけれど。

「ずっと、願っていた」

 こんな日が来ないことを。





 百余年前の記憶を辿りながら、俺はゆっくりと煙草に火をつけた。ジッとライターがその先端を焦がして、有毒の煙は肺に満たされる。甘い香りが不似合いだ。

「全ては、今日のためにあったような気がする」

 口にすれば、それはひどく空々しく、空しい嘘だった。
 すべての事象が、今日のためにあったように俺は明確に錯覚していた。錯覚だ。こんなものは事実ではあっても必然性などない。蓋然性などない。ただ俺は、この副官章を付けていた二人の少女の意志を継ぐのだと錯覚しようとしていた。
 誰が、いつ頼んだというのだ。
 俺などに、誰がいつ頼むというのだ。
 そうだというのに、俺はそれを託されたものだと、あの日から、猿柿ひよ里という副隊長を喪った時からずっと、連綿と、この日こうして俺がこの位を拝するまでに繋がっているのだと錯覚しようとしていた。
 そうしなければ立っていられなかった。

「どうして、俺なんだよ」

 もう、何も受け取りたくないのに、とこぼれた言葉が誰かに聞かれることはなかった。





 猿柿ひよ里が副隊長復帰を拒否したと隊長に告げられた時、俺は明らかに狼狽していた。ひよ里が戻ってくると思っていたわけじゃない。そうじゃない。もっと単純に、ひよ里もネムもいなくなってしまったら、席次だけで考えれば俺が副隊長になってしまう、そう思ったらひどく狼狽えた。そんなことがあってはならないと思った。
 俺はこの隊の「副隊長」になってはいけない。そう思った。そう、思っていた。
 この位は、この席次は、二番目のその場所は、いつも俺が掲げて、俺を擁いていたその席次は。

 だからこれは復讐なのだと思った。
 ポツリポツリと自らの目から雫がこぼれたのがひどく滑稽だった。
 泣いているのだ、と一拍遅れて俺は気付いた。

「どうして俺を、置いていくんだ」

 もうやめてくれと、声にならない叫びが脳裏を駆けた。

「ずっと願っていた」

 こんな日が来ないことを。
 何時かの君に花を贈ろう。
 紫色の、棘がある花を。
 きっとどんな花よりも明確に、俺に深い傷をつける花を。

 俺は百年前も、今も、祈る神を持たなかった。
 捧げるべき花は、きっと俺の手の中で枯れ行くだろう。
 捧げる場所も、捧げる相手も、俺は持っていない。
 その花は、俺に彼女が贈る花。

「これが復讐だというのなら」

 貴女を引き留めることのできなかった俺への復讐だというのなら、俺は甘んじてその位に就こう。
 その徴に描かれた花が、俺を苛み続けることを祈っている。




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薊 花言葉「復讐」