魔女とお化け


 桜乃と朋香は、常套句を言おうが言うまいが、青学の先輩たちから大量のお菓子を受け取った。

「小坂田がお姫様で竜崎が魔女か!凝ってるな」
「いいでしょ!」

 桃城と話している時だった。

「え?」

 トンっと白い物体が桜乃にぶつかって、それからその物体はぬっと手を出すと、桜乃の手を取って、そのまま会場の端に連れて行ってしまう。

「え?だ…誰ですか…?」

 会場の端で困惑したふうに桜乃が言ったら、白い物体―多分お化けの仮装をした少年が笑った。

「鈍くさい魔女。そんなんじゃ、空なんか飛べないよ」
「リョーマくん!?」

 声はリョーマのものだった。それに驚いて桜乃は言う。

「お化けの仮装してるの?」

「そ」

 だが、彼は少し飽きたらしく、被っていたシーツを取り外してしまう。そこにいたのはやっぱりリョーマだった。
 それから彼は、興味深そうに桜乃の持っている箒をつついて言った。

「竜崎はどんな魔法使えるの?」
「え…?」

 そんな細かい設定はもちろん考えていなくて、桜乃があたふたすると、そういう桜乃を見て、楽しくなったのか気を良くしたのか、リョーマはさらに言う。

「ねえ、どんな魔法?教えてよ」

 からかっているだけなのだが、本格的に困ってしまった桜乃は何とか『魔法』を考える。でも、そんなふうに急ごしらえの魔法なんて思い浮かばなくて、だから、条件を出すことにした。

「じゃ、じゃあね、リョーマくん。私が今から言うこと聞かなかったら魔法でいたずらしちゃう」

 それにリョーマはニヤッと笑った。こんなふうに彼女が可愛いことを言うなら、こんな馬鹿騒ぎも悪くない。
 桜乃は、真っ赤になって言った。


「Trick or treat!」