「景時さんと二人旅って久々でしたね」
「あー、うん。あの時のあれはあんまり思い出したくない旅ではあったけどねえ」

 大路を行く。鎌倉を後にして、オレたちは京への帰路へとついていた。

「ねえ、帰りは少し遅れても朔怒らないかな?お土産見ていきたいし、景時さんともっとゆっくりしたいから」
「いいよ〜。仕事だってちゃんと終わらせてきてるし、予定より二日三日遅れても誰も怒らないさ」

 オレのその言葉に満足そうに笑った望美ちゃんに、オレも笑う。

「ね、今度は朔も一緒に鎌倉に来ようね」
「うん」
「お母さんも一緒だよ」
「うん…」

 彼女の言葉に、うなずきながら視界が滲む。
 父に、あるいはもっと他のなにかに、あるいは彼女その人自身に、彼女といることを、彼女の全てを奪うことを、許してくれと言いに来て、許されるはずがないと思いながら、許されることを望んで、許されたら、そうして家族になれたら、どうしてこんなに幸せなことがあるだろう。


 花を手折った。
 その花があまりに美しいから、その花に手を伸ばさずにはいられなかった。
 それが罪でもいい。それが悪でもいい。


 幸いは、この身の裡にある。





2017/04/26