「ねえ、どうしてほしい?」

 ぐちゅと望美にも聞こえるように水音を立てて、景時は腕の中の彼女の耳元でささやいた。


片付けのススメ


「景時さん」
「兄上」

 景時が非番のある日、笑顔なのに笑顔とは程遠い顔の妻と妹がごろごろ三度寝をしていた景時の許に赴いた。ちなみに二度寝は望美を放さなかったので望美脱出後の三度寝である。

「んー?朔、もしかして望美ちゃん連れて来てくれたの〜?」
「戯言以下の寝言は結構です。片づけをしてください」
「へ…?」
「角の部屋!!陰陽部屋だから景時さんが管理するって言ってたけどそろそろ許容量限界だよ!いつかの弁慶さんみたいになる前に片付けて!」

 そう二人に言われて、景時はやっと思い至る。邸のすみにある陰陽部屋と称した占い道具や陰陽道具を入れ込んだ部屋は、陰陽銃ほどではないが危険なものもあるから、家人はもとより望美や朔にもあまり立ち入らないように言っていた。しかし、このところ政務が続くのに加えて貴族との付き合いも増えたため、陰陽寮のかつての同門の友人にも頻繁に会うようになったのである。その結果、いろいろと応用の利きそうなものをもらっては使おうと思うが政務が忙しく、その部屋に放りこむ日々が続いていた。立ち入るな、と言ったって、危ないものに触らなければほこりを払って箒掛けくらいはしてもいいことになっているのだが、それにしたってその余地すらない、というのが望美と朔の見解だった。

「あ〜、そうだね。あれは片付けないとマズいよね。分かった、今日は二人の忠告に従って片付けに専念するよ」
「弁慶殿と違って聞き分けが良くてよろしいことです」
「本当だよ」
「あ、片付けた暁には非番なのに望美ちゃんを抱き締めて寝られない分、いろいろ…ったあ!」
「朔の前で余計なこと言わないでください!!!」

 怪しげな方向に行きそうになった景時の顔面に、手近にあった固い枕を直撃させて、望美は朔と連れ立って夫の部屋を後にした。





「そういえば片付け終わったよ〜」

 夕刻、夕餉の席のあとに呼ばれた望美と朔が行ってみれば、陰陽部屋はすっかり片付いてた。

「ここが陰陽関係、ここが占い関係で、ここがもらいものの薬。ここが古文書とここは秘術関連だからあまり開けないでね」
「すごい…このくらい整頓されてればどこになにがあるかすぐ分かりますね」

 DIYだ、と望美がつぶやいたのに景時と朔が首をかしげたのは無理からぬことだが、整頓には籐の籠や板で作った抽斗様のものがいくつも使われていて、どれも景時の手製に見えた。前々から片付ける気はあったのだろう、買ってくればいいのにこういったものを九郎と作っているのを見たことがあったから(最も、九郎は木製品ばかりだが)発明同様景時の趣味の一つなのだと知ってはいたが、思わぬところで役立つものである。

「やればできるではないですか、兄上」
「褒められてるのかな、けなされてるのかな…?」
「褒めてるんですよ!」
「やった!じゃあご褒美は望美ちゃんがいいな〜!」

 言うが早いか望美に抱き着いた景時にとっては、妹の眼前であることなどお構いなし…というよりもいつものことである。

「はいはい。望美、頑張ってね」
「朔まで意味深なこと言わないでー!!!」

 叫びながら景時に姫抱きにされた望美にひらひらと手を振って、馬に蹴られるのは御免と朔は自分の対に引き上げた。





「これ、なんですか?」
「ん?ああ、それ、陰陽寮に勤めてる旧い友人にもらった薬。疲れが吹っ飛ぶらしいよ。いつも家のこと頑張ってくれてる望美ちゃんに、と思って煎じてみた」

 望美ちゃん湯浴み済ませたでしょ?という言葉と共に差し出されたその椀を、望美は受け取る。

「でも、今日は景時さんの方が疲れてるんじゃ?」
「いいのいいの〜。今日の片付けで出てきたんだからさ。じゃ、オレちょっと湯浴みしてくる。ちゃあんと待っててね」

いつも通りの笑みながら、やはり意味深な言葉を残して行ってしまった景時に、ボンっと音が出そうなほど赤くなりながら、だけれど自分をいたわってくれる景時が嬉しくて、望美はその椀に入った薬湯に口を付ける。じんわりした温かさに、彼の下心が含まれていることなど知らずに―――





「ただいま〜。ちゃんと待ってた?」
「お、かえり、なさい…」

 消え入りそうな震える声で景時に背を向けたまま答えた望美に、景時はそれはそれは嬉しそうな顔で笑ってしまった。もちろん、望美の異変など承知の上である。

「どうしたの、こっち向いて」
「だ、だめです…!」
「どうして」

 そう言って、夜着のまま座って振り向けない望美を後ろから抱きすくめる。

「ひゃっ」

 そのちょっとした動作ででたあえかな声に、望美は自身の手を口元にやるが、それをやんわりと外して、景時は胡坐をかくとその間に望美をすっぽりと座らせてしまう。
 そうしたら、恨めし気な目で望美がやっと振り返った。

「やあっとこっち見てくれたね」

 そう優しく笑って見せたが、恨めし気な目は変わらない。そうはいっても、そこに覇気などないのだが。その目は潤んでいて、頬は上気しているし、息遣いも荒い。

「かげ…とき…さん、これ、変な薬…」
「変?心外だなあ?疲れも吹っ飛ぶくらい気持ちよくなれる媚薬だよ?」

 物は言い様とはまさにそのこととでも言うようなことを言って景時はガバっと望美の夜着の上半身をはだけさせる。もともと白いその体は、すでに薄桃色に染まっていた。

「いや〜やっぱり片付けはするもんだね。せっかくもらっていつ使おうかなって思ってるうちにどこやったか分かんなくなったこんな薬が出てくるんだからさ」
「かげときさんの、バカ、変態!」
「え〜ひどいよ〜?変態、なんてさ」

 そう景時は耳元でささやいて、彼女の秘められた場所に手を伸ばす。

「もう、自分でしちゃったのかな?ぐしょぐしょにしてる君に変態なんて言われる覚えはないよ?」

 そうしたのは景時さんのくせに!と反駁する余裕もなく、荒い息のままで望美は景時に寄り掛かった。





「あーもうすごいね。やっぱり先に自分でしちゃってた?」
「んんっ、ちがっ、やって、ないです、だめぇ」

 景時が前戯を施さなくても、どこもかしこも敏感になっている望美の体を彼は撫でまわす。ついには秘所にその指が届いたのに、彼はそのぬかるみから溢れる蜜をそこに撫でつけて、決定的な刺激を与えずに、執拗に望美を追い詰めていた。

「駄目ならやめる?」
「そ、じゃなくて…!ひゃんっ!」

 ぬるぬると割れ目をなぞる指は、中に入ってくることもないのに、時折戯れに敏感な花蕾をかすめてはすぐに過ぎ去る。
 ただでさえ景時に一服盛られたせいで体中の熱を持て余しているのに、決定的な刺激が一向に与えられない望美はもうどうにかなってしまいそうだった。
 快楽にぼうっと霞む頭に、瞬間、電流が走る。

「ひあっ、あ、ああ!や、急に、やぁ…」
「望美ちゃん、相変わらずここ可愛いねえ」

 世間話のように言いながなら、突然、今まで掠めるだけだった陰核を強くつままれて、そのうえ蜜壺に指を差し入れられてかき混ぜられる。突然の強すぎる快感に、今度こそ望美は抵抗も羞恥も何もかもなくしてしまった。

「ねえ、どうしてほしい?」

 ぐちゅと望美にも聞こえるように水音を立てて、景時が腕の中の彼女の耳元でささやけば、もう望美に抗う術はない。

「いっぱい、気持ちよくして、ください」





「そんなの、できないよぉ…!」
「え〜?せっかく媚薬で気持ちよくなってるんだからいつもより大胆に行こう?ほら」
「ひゃんっ」

 今まで後ろから掻き抱いていた望美を抱き上げて振り返らせ、そうして胡坐の上に乗せる前に宣ったこと曰く『自分で挿れてみて?』。どっちが媚薬を飲んでいるのか分からないほど浮かれた科白である。
 望美の痴態を楽しんで十分に固くなった雄の先端を、軽々と持ち上げた望美のぬかるみにわずかに当ててみる。その感触だけで、望美は期待とも怖気ともつかない、しかし甘やかな声で啼いた。

「手伝ってあげるから、ゆっくり。ね?」

 いわゆる対面座位の状態で、一旦望美を膝の上に下ろした景時は片手で乳房を揉んで、もう片方でぬぽと彼女の秘所を広げるように探る。

「あっんん…だめぇ…」
「駄目って、こんなに準備万端なんだから、望美ちゃんが入れてよ〜。ほら、媚薬飲んじゃったんだからさ、ちゃあんとやらないとつらいだけだよ?」

 飲ませたその口でいうのだから悪質だ、などと考える余裕もなく、望美はこくこくとうなずいて、決死の覚悟で腰を浮かせた。

「大丈夫、ちゃんと手伝ってあげるから」
「は…い…」

 こんなふうに一服盛られているというのに、景時の言葉に安心したように切れ切れに答えた望美に、景時は自身の欲が満たされるのを感じていた。独占欲というか、なんというかだ。
 景時の肩に手をのせて、息をつめて望美は剛直に腰を落としていく。

「あっ、やぁぁ…」

 先端がぬかるみに沈んだだけで、いつも以上に敏感になっている体のせいで景時の肩を強くつかんで快感を耐えようとした望美の背を彼の大きな手が撫でる。

「望美ちゃん、息吐いて。ゆっくりでいいから」
「は、い…んっあっ…」

 短い喘ぎの合間に息をつきながら、望美はゆっくりと腰を下ろしていく。

「ぜんぶ…入った…?」
「よくできました」

 ぽんぽんと頭を撫でれば、快感からくる生理的な涙と、安堵からくる涙でぬれた顔で望美は景時に抱き着いて言った。

「かげときさん、熱いよぉ」
「ごめんごめん、あとはオレに任せちゃってよ」
「ひぃああっ、急に、激しっ…!」

 ここまで頑張ったご褒美とでも言うように、景時の腰がずんと動く。待ちかねた刺激に、望美は背をのけぞらせる。

「うーん、やっぱり媚薬で乱れるのも可愛いね」
「かげ…ときさんがぁぁ、勝手に、あっ、やあ、だめ、だめ、きちゃう」
「ま、いつだって可愛いし、可愛がれる口実なんて何だっていいんだけど、今日は片付け頑張ったオレへのご褒美ってことで」
「そこだめぇ、あっ、やああああ!だめ、だめぇ」
「駄目なんてことないでしょ、こんなに締め付けちゃって」
「や、いわ、ないで…ああ!やっ、だめぇ、いっちゃ、いっちゃうからぁ」
「いいよ、一緒にいこう?」
「やあああああ!」
「くっ」

 強く奥を抉られて、ひと際高く啼いた望美の声と同時に締め付けが強くなり、景時も精を吐き出した。





「望美ちゃーん、神子様ー?そろそろ機嫌直してくださいな」

 景時の言葉に、褥で布団にくるまる望美は一言も返答しない。
 あれから、望美の媚薬が切れるまで何度も事に及んだ末だから、機嫌が悪いことを差し引いても望美に景時へと答える元気はなかった。
 当の景時は暢気なもので、毎日褥に連れ込むくせに、このところ政務でこんなにたくさんはできなかったから、なんて言ってスッキリした顔をしているから厄介である。ちなみに明日も休みだと聞かされたのはつい先ごろ、事が終わってからである。

「こんど、かげときさんに…」
「うん?」

 やっとたどたどしく言葉を紡いだ愛妻の髪をいとおし気に撫でた景時は、しかしそのあとに続く望美の言葉に戦慄する。


「同じ薬一服盛って、柱に縛り付けてあげますね」


 まさに戦神子の形相で妻に言われて、景時の全身から血の気が引いた。

 ……彼が自業自得の事態に陥ったのは、また別のお話。




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媚薬ネタなのにあんまり媚薬関係ないしやってることはいつも通り

2018/02/10