「上手だよ、望美ちゃん」

 そう言って、景時は微笑むと望美の頭を撫で、髪を梳く。だが、望美にはその言葉に応える余裕なんてなかった。  


愛でる


「うーん」
「どうしたの?」

 望美と祝言を挙げ、京邸で家族そろって住んでいるとはいえ、源氏と平氏、そして鎌倉との様々な件が終わっても、というよりは終わったからこそ、西国の統治を任された景時や九郎たちに休みというものはほとんどなかった。とはいえ、今までの戦ではなく、政務がほとんどなのだが、それも相まって夜までかかることが多い。
 それで景時は邸の主人ではあるのだが、帰りが遅いからと言って女房達に母と朔、それから望美の湯浴みや寝所の支度などを自分のことより先にやるように指示していた。
 それでも望美は湯浴みを終えて夜着に着替えても、景時の自室で彼を待っていることが多い。あまりに遅くなる日には先に言って、朔に懐柔策を取ってもらい先に寝るようになったのだが、そうは言っても夫婦になったというのもあって、むしろ景時の我慢が利かずに望美が褥に連れ込まれて寝不足になったことがこの懐柔策の発端だからなんとも言えないことなのだが。
 そのようなことがあったが、今日は景時の帰りも早かった。それでも先に望美は湯浴みを済ませて待っていたわけだが、それも景時が帰ってきてからのことだ。「望美ちゃんと朔が先ね。母上は寝たよね?」と言われて、それだから、望美は寝所で景時が湯浴みを終えるのを待っていたところだった。

「うーん」

 望美はそうして待っていた夫が湯浴みを終えて濡れた髪をぬぐいながら夜着で「お待たせ」と言った姿を見て先ほどからうーんと言ってはその夫をしげしげと眺めている。

「望美ちゃん?ほんとにどうしたの?」

 そう言って布団の上に座る望美の前に腰を下ろすが、望美はやはりじっくりと景時を見つめて思案顔をしている。

「のーぞーみーちゃーん?神子様ー?」

 ふざけたように、それでも少しの心配もありながら景時が軽く肩を抱いて望美の顔を覗き込めば、そこで望美ははっと我に返った。

「なんでもないです!」
「それにしてはずいぶんオレのこと見てたけど?」

 そう言うと、望美はふいっと視線をそらした。それは恥ずかしいとかそういうことよりも、どこか不満そうなそれだった。

「笑わないですか?」
「た、たぶん」

 どういう類のことか分からないから、歯切れは悪いがそう答えると望美は視線を戻して、景時の顔を見た。やはりそれはじっくり眺めるような見つめ方で、何かしてしまっただろうか、と景時が思ったところで望美は口を開く。

「景時さんって、かっこいいですよね」
「へ!?」

 唐突なそれに景時が素っ頓狂な声を上げると、望美はふくれたように続けた。

「それでいっつも余裕があって。今日改めてこう、ね、お風呂上がりで髪も濡れてて、来てるのだって寝間着だからなんとなくやらしくて。それなのにいつも余裕たっぷりで私のことめちゃくちゃに抱くじゃないですか」
「あ、あのね、望美ちゃん?女の子がそういうこと言っちゃだめだよ」
「そんなことって言うけど私だって寝不足になるくらいなんですよ!」

 嫌じゃないけど、と恥ずかしそうに付け足して、だけれどやっぱり望美はじっと景時の姿を仔細に眺める。

「それでね、思ったんです」
「う、うん?」
「景時さんの余裕がないところ、見たいなって」
「は、はい!?」

 言うが早いか、望美は景時を突然布団に押し倒す。

「だってずるい。いっつもいっつも私ばっかり恥ずかしいこと言わされて、恥ずかしいこと言われて、私だって!」
「望美ちゃん、落ち着こう、ね?」
「落ち着いてますー!」

 押し倒して圧し掛かるようになってきた望美を少し押し戻し、景時はなんとか上半身を起こす。そうしたら、押し倒した望美は景時の足のあたりに乗って景時に向かって戦いでも挑むように言った。

「だから今日は私の番!」

 衝撃的な発言をして、望美は景時の夜着の帯に手をかけた。





 落ち着いて、とか、やめようねという景時の言葉もむなしく、剣を振るっていたから強い膂力に押さえつけられ、また望美を無理やり引きはがすこともできずにいるうちに、望美は景時の着ているものをすべてはだけて、そうして彼の足の間に身を置いた。これから起こりそうなことを完全に予見した景時は最後の抵抗と言うように彼女の顔を上げさせようとしたが、時すでに遅しというやつか、望美は景時のそれにすでにふれていた。
 急所を取られた形の景時が息をのむがそれは望美も同じだった。

「おっきい」
「まじまじと見てそういうこと言わない!」

 景時の言葉を、だけれどやはり望美は意に介さない。

「景時さんうるさいですよ。今日は私が景時さんを気持ち良くするんだもん」

 むくれたようにそう言った望美に、なんと言えばやめてくれるだろうと景時は思ったが、その一方で、彼女に握られて見つめられるそこに熱がたまっていくのも感じていた。そうしてふと思うのは、望美から仕掛けてきたことなのだから、という下心だ。

「じゃあさ、気持ちよくして?いつもオレがやってるみたいに」
「え?」

 どうするか、そこまでは考えていなかったことも景時は見抜いていたようで、優しく望美の頭をなでる。

「オレがやるみたいにさ、口で気持ちよくしてよ。ちゃんと咥えて?」

 嗜虐的なその言葉は、すでに形勢が逆転している証左だった。





「んっ、ふっ」
「そうそう、上手。ほら、ちゃんと舐めて?」
「ふぁっ」

 自分のそれを口に含ませて、最初は戸惑っていた望美に、景時は教え込むように舐めるように指示したり、ゆっくり動かしたりするものだから、望美はだんだんと思考が融けていってしまう。その上に、最初に眺めた時だって大きいと思ったのに、いざ口に含んで舌で愛撫しているうちにそれは大きさも硬さも増していき、望美は息苦しいような、だけれど景時に指示される言葉と、そうして必死に舌で愛撫を繰り返すたびに感じる淡い苦みと酸欠のようなそれに、だんだんと頬が上気して、顔もとろんとしてくる。

(これが、いつも入ってるんだ)

 言葉にはできないからそう心の中で思うと、自身の秘所がはしたなく疼くのを望美は感じた。

「上手だよ、望美ちゃん」

 くすっと微笑んで景時に言われて頭を撫でられたそれに、望美の中を羞恥と、そしてそれ以上の快楽が走る。

「こんなものかな」

 答えられない望美をいいことに、景時は彼女の口内からそれを抜く。

「あっ」

 熱くなっていたその口の中の喪失感は一瞬で、次に感じたのは顔に温かいものが掛かる感触だった。それが精液だと気づくのには少しの時間を要したが、景時はそのぼんやりとして、とろんと上気した望美の顔に自身の劣情を放った様を楽しげに眺めていた。

「飲んじゃうとおなか壊すかもしれないからね?」

 もっともらしいことを言って、白濁を掛けられた望美の顔を、自分が汚したのだと満足げに眺めていれば、一度精を放ったそれも硬さを取り戻す。だが、そのままではと思ってその白濁を濡れた布で拭くが、望美は口内一杯にそれを含んでいて酸欠なのに加え、顔に精液を掛けられたのだ、という羞恥や疼きでいまだにぽーっと顔を上気させている。

「望美ちゃん、オレは気持ちよくなったから目標達成だね?」
「ん」

 その問いかけて、望美はもう思考回路が繋がらないようにこくりとうなずくと、今度こそ景時は楽し気に、妖しく笑った。

「じゃあ、今度はオレの番」





「ひあっ、や、なめちゃ、あっ、やだ、イッちゃ」
「ねえ、オレの咥えてただけでこんなにここぐちゃぐちゃにしてさ」
「しゃべっちゃ、やだぁ」
「望美ちゃん、期待してたの?それともやっぱりやらしいのかな?」

 意地悪くそう言って秘所を舐めるのをやめて敏感なそこに息を吹きかけると、望美の体はびくりとはねた。

「はは、どんどんあふれてくる」
「いや、いやぁ」
「嫌じゃないくせに」

 そう言って景時は再びそこを舌で舐める。的確に弱い突起をざらりとした舌で刺激すれば、こんどこそ望美は耐えきれずに背をのけぞらせた。

「あ、あっ、だめ、だめぇ、ああ!」
「イッちゃった?」

 絶頂を迎えて肩で息をする望美に、景時はそう意地悪く言って、それから続けた。

「オレにしてくれたのと同じこと、しただけなんだけどな」
「か、げときさん、のいじわる」
「そんな、ひどいな。ああそれとも、オレと違って最初からぐちゃぐちゃだったのにって言いたのかな?」
「ち、ちがっ!」

 真っ赤な顔で否定した彼女に、景時はさらに追い打ちをかける。

「嘘は良くないな?オレの咥えてこんなにして。期待してたんでしょ?」

 そう言って、そのぬかるみを撫でれば、望美の息は荒くなる。気持ち良いのと羞恥とか混じった思考はもう正常に働いてはくれなかった。

「男を押し倒して、こーんなやらしいことした淫乱な子にお仕置きが必要かな?」





「かげ、ときさん、ひぁっ」
「んー?」
「それ、やだあ」

 お仕置き、と言ったが景時はくったりと力の入らなくなった望美の体を抱えて胡坐をかいたそこに座らせて、自身のそれを挿れて、浅いところでの出し入れを繰り返していた。
 景時にしてみれば軽い望美の体を持ち上げては沈めたり引き抜いたりを繰り返すそれは、もうどこもかしこも敏感になってしまっている望美には我慢のできないじれったい快楽だった。
 だからやだやだと喘ぎ声の間に言って景時の肩につかまる望美から、景時はずるっとそれを引き抜いて言った。

「ふぁっ?」

 瞬間的なことに驚いたような声を上げた望美に、景時はやはり意地悪く言った。

「じゃあ、ちゃんと言って、自分でしてみようか?今日は望美ちゃんの番だからね」

 何を言わせようとしているのか、何をやらせようとしているのか、ぼんやりする頭でも分かって、そんなの恥ずかしくてできないはずなのに、もう快楽に溶かされた望美の思考にそんな余裕はなかった。

「自分でちゃんと、いれるから、気持ちよくして?」

 とろんとそう言って、望美はそのぬかるみを景時のそれに宛がい、腰を落とした。

「よくできました」
「あっ、やっ、いっぱい、で」

 いわゆる対面座位の状態で腰を落としたら、景時は容赦なくそれを押し込む。いつもと違う体位なのもあり、突き上げるように奥まで当たったそれでいっぱいになった胎内に望美は景時の肩に顔をうずめてその快楽に耐えた。

「ぐちゃぐちゃだね。期待してたんだ、やーらしい」

 耳元で言えば、キュッと締まったそこに、望美は自分の意志に反してそうなることにさらに羞恥を煽られるが、もうそれどころではなかった。

「奥、あっ、だめ、だめぇ」
「奥好きでしょ?」

 そう言って景時は一瞬望美を軽く持ち上げると、そのまま強く自身を埋め込むように腰を落とさせる。

「ひああっ、やっ、やああ!」
「あれ、イッちゃった?ほんとに可愛いなあ」

 奥まで一気に押し込まれたそれに耐えきれずに望美はびくびくと震えて絶頂を示す。だが、景時はそんなことにもかまわずにまだ腰を動かす。

「だめ、今、いま、まだ、だめぇ」
「何回でも気持ちよくなってよ」
「だってぇ、かげとき、さんも」

 細かな絶頂を次々に味合わされている望美のその言葉に、今度は景時の余裕がなくなっていく。

「ほんとに君は無意識でさ!」
「ひゃんっ、はげしっ、あ、あぁっ」
「気持ちいいよ、望美ちゃん」

 そう余裕のない声で耳元で言えば、その吐息さえ快楽に繋がって、望美は景時の咥えたそれをキュッと締め付ける。それが相図とでも言うように、景時は挿入の速度を上げた。

「やっ、だめ、また!あんっ、あ、だめぇ!」
「望美ちゃんっ、ごめん、オレも限界」
「やあああ!」

 望美の悲鳴のような声とほとんど同時に景時もどくどくとその胎内に精を吐き出す。その感触すら媚薬のように望美をとらえて、望美は強く景時に抱き着いた。

「かげとき、さん」
「んー?」

 射精の倦怠感とそれから望美のかわいらしい声に、激しいそれのあとだというのにのんきにな調子で答えれば、望美はふわふわした声で言う。

「かげときさんも、気持ちかった?」
「……この子はほんとに!」

 そのあと景時が貪るように望美を求めたのは言うまでもなかった。





「景時さんのばかばかばかー!」
「ごめんってば」

 やっと景時の昂った行為が終わったのは夜半を大きく過ぎていた。今日は休みだ、と思ったが、そういう問題でもないだろうという自分がいるのも景時は分かっていたのだが。

「景時さんが乱れてるとこ見るつもりだったのに」
「んー?でもオレはいつも通りどころかいつもよりやらしい望美ちゃんがいっぱい見られて楽しかったよ」
「もう知りません」

 横になった状態でぷいっとそっぽを向いた望美の髪をなでて、景時は耳元でささやいた。

「知らないんなら、今度はもっとたくさん教えてあげるよ?」

 そんな一言に、望美は真っ赤になって布団に顔を伏せた。




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主導権を握るつもりでいつも通りの景望。エロが無性に書きたかったので満足です。

2020/3/10