意識
「風邪、引くから」
聞き慣れた声がした気がして、私の意識はゆったりと浮上していく。
「起きるなら起きるでもいいんだけど」
声は今度こそはっきりと聞こえた。内村くんだ。次いで、バサッと黒いジャージがかぶせられて、私は秋晴れのコート裏で寝ていたことを思い出した。
「いくら杏ちゃんでもそんなとこでずっと寝てたら風邪引く」
「……今何時くらい?」
「3時」
「うわあ」
ほんの10分くらい横になるつもりだったんだ。秋晴れで気持ちが良かったから、男子テニスの練習が終わって兄を待つ間のつもりだったのに。それはたぶん、一時間くらい前のことだ。
「ちなみに橘さんは放っておけって言って帰った。バカでも風邪引けば自覚するだろって」
「内村くん、ひどくない?」
「まあでもこの陽気で寝たくなるのは分かる」
そう言って彼は寝転がる私の上にかけた自分のジャージを整えて、それから横に座った。
「ここ、猫が良くいるから、たぶん寝心地いいんだよ」
「そっか」
そう言いながら、私はどうしてか安心していて、またゆったりと意識が沈んでいくのを感じていた。隣に彼がいると思ったら、まだもう少し、寝ていてもいい気がしていた。
意識 心所の作