末那識


 それでは彼がオイフェに出会わないように眠り薬を飲ませよう。
 それでは彼が死なないように友を殺さぬと誓わせよう。
 それでは、それでは、それでは―――

「知っていたさ」

 だから私はこの結末を知っていた。
 彼の死を、クー・フーリンの死を心のどこかで知っていた。
 心?
 違う。もっと深くに潜在する世界が私に告げていた。
 この男はエリンに永久に名を残すが、短命に終わる。そんな野辺の予言者とは違う。私は『知っていた』。
 私はその男が私の城にやってきてから、寝ても覚めてもそのことしか考えられなくなっていた。私はセタンタに執着しているのではない。『私』に、執着しているのだ。

 クー・フーリンに私は殺せない。

 その事実だけに私は執着しているのだ。
 していたのだ。

「師匠?」

 眠っていた私を緩やかに揺さぶる男の手が実在していることに私は怖気に似たものを感じた。私にはもはや、夢と現の区別すらない。
 区別すらないほどに、私は執着し、妄執し、それはもはや、死の形すら思い出せないほどに、深く深く私を釘付け、嘆かせ、そして悦ばせた。

「クー・フーリン、寝込みを襲うほど落ちぶれたか?」
「ちっげーよ!坊主が師匠が寝込んでるって言うから見に来ただけだっつーの!」

 ぶつぶつ言いながら、彼は勝手に私の部屋の棚を漁る。

「アンタ、バカみたいに死にそうな顔してたぜ?今度はもっとまともな夢を見ろよ」

 そう言って彼は薬壜を開けてそれを口に含んだ。
 ああそれは、私がお前をオイフェに会わせないために助けるために作った霊薬?

 そんなものを私はここに持ってきただろうか?
 ここに?

 そんなものをどうして彼が知っているのだろうか?
 どうして?

 不意に男が私の小さく呼吸をする唇に口づけた。とろりとした薬と、男の唾液が口中に満ちて、私はそれを嚥下した。

「いや、夢なんざ見ないくらい深く眠っちまえ」

 目が醒めたら、すべてが終わっているような、そんな声で男は言った。


末那識 潜在意識、自意識