あなたが好きとか嫌いとか
「スタンド使いは引かれ合う? 何だそれ、知らんな。まあいいや。『この宇宙に於いては、すべての物体は互いに重力、引力を及ぼし合っている』。私はこの発想を素直に賞賛しよう。
……なんだその顔。は? 私が人を素直にほめると気持ちが悪い? 失礼にもほどがないか?
私が真っ当な事物には真っ当な評価を下すのは知っているだろう、貴様は特に、身をもって。
ああ、それでだ。別段、重力だの引力だのには特に興味はないんだがね。え、うん。興味ないぞ。だって時間止められるし。何なら気化冷凍……あ、駄目?
そーだな。具体的に言うと、このこの『万有引力の法則』の考え方の中で私が一番感心したのは『すべての物体』という中で地球という天体と宇宙にある天体を同列に扱ったことだ。そうして同時に『この宇宙に於いて』という前置きを付けていることに感心した」
そう淡々と、だが興味深げに語る元吸血鬼が何を言わんとしているかは分かったけれど、分かってしまうからダメなんだろうなあー、なんて心の底から思って、僕は新作のゲームをやるか、ポルナレフにでもメールをするか考えていた。
だってそんなのは馬鹿げていないか?
「……承太郎が天国に行く方法のノートを燃やしたとか燃やさなかったとか。僕は君に殺された後だから知りませんが」
「知ってるじゃあないか」
「どーでも良いんだけど……DIO様が館で一人で書いて一人で読んでたやつですかァ?」
「貴様がこそこそ盗み読みしてたヤツですよー」
笑顔でからかうように言われてため息が出た。だってさ。
「一応、トモダチとかいうのと仲良くなる方法を探していたということでひとつ」
「それで思いつくのがプライバシーの盗み読みだから友達出来なかったんじゃあないですかー、花京院君はァ?」
「うるさいぞ……」
一言言ってやってから、そうして考える。すべての物体。だが、但し書きはこの宇宙に於いて。
「地球は他の惑星や星から見ても取り立てて特別な天体ではないし、それで言ったら木から落ちる物体と変わらない。同時にその重力や引力というものの法則や仮説が成り立つのも『この宇宙』という限定的な場所だけでしか証明できない、か」
「お前のそういう察しがいいところは買っているぞ、昔から」
「そりゃあどうも」
答えてからやっぱりこんなの馬鹿げている、と思った。馬鹿げている。何もかも。じゃあ言っていいのかって思うけども、言ったらなんか僕が人非人みたいだ。別にDIOっていうかディオを傷つけることに呵責はないけど、一応……。
「友達だから言うけど」
「ほーう。私たちはまだ友達だったか」
「やめてないつもりでしたから、殺されましたけど」
「先に裏切ったのはお前だろう?」
「……悪かったと思ってますよ。友達なんで言いますが、ここ以外の別の宇宙……宇宙か知りませんけど、ここ以外の別の場所、ここ以外のどこか、ここ以外の何かに逃げたいなら、付き合ってやらないこともないですよ。
例えば重力がなくて浮いてみたり、
体も、皮膚も骨もバラバラになってみたり、
逆に引力があってくっついたり、
そもそも人の形なんてもんが残っているか知りませんし、精神も、魂も知りません」
そう言ったらそいつは笑った。笑ってコーヒー飲むだけで少し様になるのは顔面補正ってやつだろう。得な生き方してるな。
「『世界』。君の目指すそれがどんなものか知らないし、知ろうとも思わないが、付き合えと言うならそのくらいなら一緒に行ってあげます。その程度のトモダチへの優しさは持ち合わせてますから」
「ただその形が違うと分かっていたと言ったら?」
「だからそんなことは昔から百も承知だと言ってるだろうが。あの日記読んで心配して吐いたんだぞ。さすがにDIO様病んでるなー、大丈夫かなーって。やっぱり思ってた通りに世界を作るじゃなくて逃げる方向性じゃあないか」
「……そういうところが貧弱なんだよ、貴様は」
だってそうだろう? その法則が適用されない場所があることを考える、なんていうのはただ単にそれを作るというよりも、そこに行きたいと願っているだけだ。
「そんな逃避行なら一緒に行きますよ、DIO様っていうか君が心配なので」
「キョーレツな告白をどうも」
笑ったディオがコーヒーを飲んだ。とりあえず、出発日は今日ではないらしい。
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重力と引力とあなたが好きだという告白と。
2025/2/27