【ハイエロファント・グリーンの場合】
何が起こったのか分からなかった。
腹に大穴が開いていて、あ、死んだな、と我がことながらぼんやり思ったのは、たぶん血液が足りないからだ。
血液? 臓器? どっちでもいいが、まだ意識があるのは嫌がらせかよ、と思いながらもそれにしたって。
「詰めが、甘いんじゃあ、ないのか?」
そうだ、血が抜けてくれて、少し助かった。これは、明らかにおかしい。
こんな一瞬で……そうだ。あの結界は、触れればどこでも、すぐに知覚出来るはずだったのに。
「時間の、差が……ない?」
ああ、そうか。そういう、こと、か? それ、なら。
DIOのスタンドの正体が分かった、かもしれない。
そうだ、初めからこれが目的で、DIOのスタンドの正体を暴くのが目的だったのだから、これが、ジョースターさんに伝われば。そうして、ポルナレフに、承太郎に、伝われば。
「うぇ、きもちわる」
ハイエロファントグリーンが眼前に居たのに思い切り血を吐いてしまう。カッコ悪いな。ていうかまだこんなに血が残っていたのか。だけども血を吐いたおかげで体が軽くなった気がする。
「ごめん、最後に、本当に、最後だから、エメラルド、スプラッシュで、あの、時計を……」
最後の最後に、僕の精神だという、だけれど僕の精神だって言っても、僕の一番の理解者で、誰よりも僕の近くにいてくれて、きっと僕を分かってくれていた彼が放った綺麗な宝石が時計を貫いた。
「よし、あー……なんか、ねむい、ね」
目がかすんでいるのか、それとも彼がかすんでいるのか、薄くなっているような気がするのに、ハイエロファント・グリーンはエメラルド・スプラッシュを放った後に振り返ったままこちらを見ていてくれた。そうして、笑ってくれた。
「あ、寝てもいい? あした、さ……」
あした、なんだっけ? ほら、あしたも、きみと、いっしょに、みんなといくから、おくれないように。だけど――
「まあ、いいや。とりあえず、寝るか」
笑って頷いてくれた彼に、正しいも間違いもないんだと、やっと思えた気がして、僕はそのまま目を閉じた。
=========
2024/12/23