毒のない水

「ここに毒の入ったグラスがあるとする」
「……」
「それは一見すると水が入っているように見えるんだ」
「……それで?」

 問い掛けに花京院はひどく冷めた目でこちらを見た。冷めた? というよりは何かを諦めたようにさえ見えた。

「怪我をしたぼくはそれを‘間違って’飲むのさ」
「……おまえは間違わねーどころか、毒見しろとか何とか言ってオレか承太郎に飲ませるまであるだろうが」
「ああ、それはあるかもね。そんなもんぼくは飲みたくないから二人が犠牲になってくれれば助かるし……ただ、まあ……そうありたいというだけの話です」

 ……ああこの男は、甘んじて死を受け容れる。

「死よりも深い恐怖、か」

 言葉に少年と青年の間のような男の瞳が小さく揺れて、それから彼は笑った。

「ただのみみっちい悔恨ですよ」




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2024/12/31