また会いましょう
『見破ったのは花京院だ、花京院の死は無駄にしない!』
あの時私……というかおれは何と答えただろう、というと『だからなんだという』だったと思う、と思い出したくないような、と思いながらも考えて紅茶を飲んだ。
……コーヒーは先ほどでもう飲み飽きた。
「ということはつまりだ。直接の死因はなんかプッツン来て『世界』と親和性があったためにうまくいった承太郎だが、間接的にはお前のせいで死んでいるのだよ」
「それは良かった。安心しました。いえ、ジョースターさんなら分かってくれると確信していましたから安心も何もありませんが、君が倒せたこと、君のような吸血鬼が前世とはいえ大々的に世に放たれる前に始末できたことが、分かっていても改めてご本人の口から聞けるとほっとします」
「クソ腹立つ」
何重もの意味で、と付け加えたら、私と同じく紅茶を飲んでいた花京院典明は何か考えるようにテーブルを見て、それから向かいに座る私の方を見た。
「でもそうなると困りますね」
「ほう」
だから馬鹿だと言っている、と言いかけた言葉を飲み込んでそう返せば、本当に困ったように彼は笑った。
前世という物があるとして、そんな記憶があるとして。だがそれは記憶や前世というにはあまりにもはっきりしすぎていて、地続きなものだった。
そこは一巡した世界ではない。
そこは天国ではない。
それは分かっている。
そこはおれの……私の望んだ世界ではないのかもしれない。
ただ単に、『生まれ変わったら記憶がありました』なんていう、いつかどこかの花京院クン風に言えばファンタジーやメルヘンのようなことが起こっているというのに、現代社会はわりと平然と回っていき、わりと平然とそれを私たちは受け入れているというのに、なぜか記憶はあり、なぜか私たちは引かれ合う。
だから花京院が『法皇の緑』を相変わらず持っていたように、そうして空条承太郎やモハメド・アヴドゥルたちと再会したように、私が『世界』を相変わらず持っていたように、ただ吸血鬼ではなく、そうなることもなく、スタンドがある以外は普通の人間であるために、どうしてか、というか花京院が再会したように、私もジョジョ……ジョナサンだのエリナだのの夫婦漫才を毎日見る羽目になったように。
それはある意味で平和で、ある意味で残酷な日常だった。だから私が花京院に会ったのは、本当にここまでの馬鹿が存在しているのだな、ということを確認した時だった。
幼さは残っているが、懐かしいというというよりかは切羽詰まりすぎていて、いつもこんなしゃべり方だったな、何かに追い詰められているような、という声がして、頭痛がした。
『ンドゥールとアイスには、謝らなければならないと思っていました。特にンドゥールには』
『今更だ』
『確かに今更です。あなたとは同じでした、ぼくの最初の理解者は承太郎やジョースターさんじゃあないんです。法皇の緑が見えて、安心感を与えられたのはDIO……様でした。あなたと同じなんです。でも結局あなたに目を切り裂かれても気づけなかった。恐怖を乗り越えたなんて嘘だ。僕は逃げたから死んだだけです』
『いや……今更という言葉の使い方の問題なのか、これは……誤解を与えている気がする……そうだ、別の話をしよう。その髪は染めているのか? 過去もそうだったのかは分からないが、現代日本では自然発生的にお前のような髪の色になるのか?』
『え、はい。これは別に染めてませんけど』
そう、今度の生では視力のあるンドゥールとどこにでもあるチェーンのコーヒーショップで話していた花京院がアホすぎて眩暈と頭痛がした。ちなみにンドゥールとは仕事の打ち合わせだのなんだのでそこで待ち合わせていたのだが、その前に道沿いの大きな窓際の席にいた彼を見かけたらしく走りこんできたのが花京院だったそうで、ンドゥール曰く『何れにせよ突拍子のなさが危険だし、見かけによらず短慮だ』と言われていた。本当にな。
それで花京院の後ろに立っている私に気づいたンドゥールはため息をついて言った。
『おれに謝ってはくれなくてもいいんだが……例えばだ。DIO様がこの現代……この世界におれのようにいるとしたら、お前は謝るか? それとも憎むか?』
『DIOにもしも会えたなら、彼のしたいようにすればいい。謝る以前です。僕は彼を裏切りました。承太郎たちに、というだけではない。もっと根本的に裏切りました、か、ら……?』
そう言いさしたところで肩に手を置いてやったらその不憫でアホな高校生が恐る恐るというふうにこちらを振り返ったから、言ってやった。
『そういうことなら勝手にさせてもらうぞ、裏切り者の花京院クン♪』
『……う、うわぁぁぁ!?』
『吐くなよ……?』
『お前もほかに言うことないのか、ンドゥール?』
『申し訳ありません、彼のこの挙動で結びつくのがそれくらいしか……』
などという感動も何もない『再会』というのも烏滸がましい結果、勝手にさせてもらった、という形で仕事の話をしてから連れ帰った部屋で話を聞いてみた訳だが、前世の私の死因ってある意味コイツが死なないと成り立たなかったワケで。だが。
「いや、そうでもないな。分岐点なんてものはいくらでもある。『お前だけがすべてじゃない』」
「……は?」
話の内容の大筋は、ンドゥールに語っていたことと変わりがなかった。変わりがない、という訳ではないのだが。だが、改めて言葉にされてみて、私はどこかその遠いようで近い、短いようで長かった時間を思っていた。
『困ります、本当に』
『なぜ?』
『再会した今はもうあなたの好きなようにしてほしい、今度こそ。あの時に僕があなたというかお前に殺されたのは、能動的であると同時に受動的だった。僕は君を裏切ってから何も見ていなかった。肉の芽を植え付けられた時、というんじゃあない。ただ単に、君が友達になってくれた時に、僕は考えるべきだった』
そう、花京院は言った。
考えるべきだった、と。
『法皇の緑』を持って生まれたために、誰にも心を開かなかった。両親に互いがいることさえ怖かった、と。周りの人間が妬ましい、アドレス帳を考えれば狂を発しそうだと、そこまで悩み切っていたのに、初めてその『法皇』を見ることが出来る者に出会った時に、花京院は確かに安心した。その相手から友になろうと言われて、恐怖よりも安堵した、喜んだ。
『それなのに、僕はそのすべてを否定した。いや、否定しただけならまだマシかもね。肉の芽を抜かれて目が覚めた、なんて嘘だ。ただ単に怖かったんですよ。DIOと対立する? 戦わなければならない? 違う。全部強制された関係だったのか? それも違う。確かに見つけてくれたのも、友達になってくれたのも、安心させてくれたのも君なのに、僕はそれから目をそらして、逃げた』
逃げた、か。逃げるのもそうじゃあないのか? なにせ強制するでもなく、もっと良心的にスタンドが見えるし使えるし、『真っ当な』ジョースター家の二人に、アヴドゥルに会えたんだから、と言ってみれば彼は顔を露骨に歪めた。
『だからそれも含めて、逃げました。君の友達をやっていく自信がなかったのかもしれない。でもじゃあ、僕と同じように生まれた時からスタンドがあって、DIOに会ってやっと自分の価値を見出したンドゥールと僕の違いはなんだ? 君から逃げたか逃げなかったかだけだ。それなのに彼から彼と同じように目をつぶされても僕は逃げ続けた。恐怖? 違う。ただ単に、君に「友達じゃない」と言われるのが怖かった。だから』
『だから、それが怖いが、逃げて逃げて、それで対立とか、逆恨みの結果が法皇の結界と半径20mのアレだとしたらお前相当に嫌な奴だな』
『……そうですね。だから好きにしてください』
「それってまた思考放棄じゃあないのか?」
「それは……そうかもしれないが」
友が出来ないことを嘆いていたからそこに付け込んだ私も悪いんだろうが、それでもそれによって起こった出来事を、すべて受動的に受け入れ続け、その結果として受動的に私を殺そうとして、私に殺された。そこまでがすべて受動であり、受動的に裏切って、恐怖心や猜疑心からむしろ私を見限ったのは彼の方だと言うのなら。
それを苦に思うから、今度こそ『友達』である私の思うようにしてほしい、と『友情』とかそういうもんを投げて寄越すなら、それはそれで。
「相変わらず狡猾な男だな、花京院」
「なっ!?」
「正直な感想だが? 誉め言葉だろ、このディオから狡猾だと言われたんだぞ? 褒められてるとしか考えられんだろ」
「そうじゃあないだろ! 絶対違うだろ!」
喚かれたが、言いたいこともやりたいことも分かっているし、分かっているから『勝手にさせてもらう』ことにしたのだし、と思って、その『裏切り者の花京院クン』に言いたいことを言ってやる。
「あのなあ、はっきり言ってお前がそこまで悩む必要はないんだよ。今ここにはスタンドや波紋があって、記憶があっても実際にそれで他人を殺傷する必要も、不老不死を目指す必要もない。それに『今・ここ・私』という分っかり易い論議で言えば、私は何も困っていないから、過去や未来についてお前というか君と語る必要がない」
そう言ったら花京院は明らかに傷ついた顔をした。そうだな、お前のそういう顔が好きだよ、私は。
「だから困る必要などないという意味だよ、花京院。例えばこの世界、この時代で私というかおれは別に生活に苦労していないし、絶望もしていないからジョジョを嵌める必要もなければ殺す必要もなかった。互いに記憶があってもやっていける。いろいろはあったがな」
だが、それを含めて過去のことだし、前世のことまで責任が取れるほどおれは有能じゃない。
「不老不死や支配、そういうもんはいいと思う。いいとは思うが今は実現できないし、実行できない。要不要で言えば不要だ」
「あ……」
ここまで言ったら分かるだろう、と思ったら、やっと分かったように花京院の目が見開かれてそれから彼は俯いた。
「謝罪も後悔も不要だと言っている。少なくとも『おれ』はジョジョとエリナには謝罪したが、お前が『私』に謝る道理はない」
それは残酷なことだろうと分かっていながら言ったのだから、相変わらずだなと自分自身思ったが、だがそうしたら花京院はどうするだろうという興味はあった。
このくらいに逃げ道を用意したら、
「じゃあ、君に謝るのはやめにします」
「そうしてくれ。面倒ごとは嫌いなんだ」
「だから、その代わりに、言いたいことがある」
少年はまっすぐにこちらを見ていた。エメラルドは内部に特有の傷を多く持ち、脆い宝石だが、本来は高い硬度を持つ。特別で妙な輝きは、相変わらずこの男に似合う言葉だ。
「あの日、法皇の緑を、いや、僕自身を認めてくれたあなたに、僕はまだなにも返せていません。そうして僕は今もまだあなたを忘れることが出来ない」
「……どういう意味だ?」
そう言ってやったら隠すように顔をうつむけやがった花京院の顎に指先をかけて顔を上げさせてやったら、真っ赤になった彼は言う。
「察しろよ! 言わせる気かッ!」
「言ってもらわんと分からない」
そう言ってやって見つめた瞳が揺れて、小さく言葉が落ちた。
「ずっと好きだったんですよ、僕を見つけてくれたあなたが」
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平和な感じの現パロというか転生パロに挑戦したかったというか。
もうちょっと思い出したころの花京院や周りとの関りとか書きたいです。
2025/2/19
2025/3/23 加筆