たった一言知らせて呉れ
「愛していると言っても伝わらない気がする」
「どうしたの? 帰ってきてからソファでそのまま寝てしまうし」
「悪い」
小さく言ってから、今日で終わりだからと続けようとしたその口を塞がれた。唇の感触に泣き出したいような気がして、そうして自分に泣く権利があるのか、と考えた。
こんなことなら誰も愛さなければ良かった。
そもそも彼女も、徐倫も、俺にさえ関わらなければ何一つ傷つかなかったのに。
「伝わらないことはないし、愛しているわ。どこにいても」
ああ娘が起きる前に行かなければ。だから、たぶん、出来るなら。
「愛している」
いつまでも。
*
そのたった一言が、といつか言われたことを思い出す。
私は……俺は口下手だからと誤魔化してきたのを最初に言われたのはそういえばもうずいぶん前の話だ。言葉が足りないとエジプトに行った頃に誰かに、と本当に古い記憶が海に融けた。
「おまえのことは、いつだって」
こんなことなら、もっと――
*
「……ちょっと」
「なんだ」
「……ママから離れて。もう一時間もソファでそうやって抱えて! って言ったそばから何でキスするの!? 聞いてたかこの馬鹿!?」
「離れて、なんてずいぶんなことを言う。ああそうか、お前もこうしてほしいんだな。私と一緒で口下手だから」
待て待て待て、ちょっと待って、なんでママ笑ってるの、父さんってこういう性格だったっけ?
「き、記憶にない!?」
「そこも含めて悪かった」
ほら、と抱えあげられて膝に乗せられた。隣でママが笑顔で見てるんですけども!?
「私、もう19なんだけど」
「日本ではまだ未成年だな」
「キスの経験くらいある」
「それは少し嫉妬してしまう」
重なった唇と、間近でもやっぱり塞がっている右目に何か言ってやろうと思っても何も出てこない。言ってろ、この馬鹿親父。
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最後は生きてて再婚したらっておまけです。19が未成年なのは承太郎さんの年代の感覚なだけ。
2025/1/4