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「そういえば、あまり詮索したくはないんだが」
「はい?」
ぴとっとくっついて気持ちよさそうにじゃれてきているあたり、詮索も何もないが、と思いながらも今日は休日で私もこの私邸にいるんだが、と思っていたが、そういえば今日はいろいろとあって帰ってきたわけだが、朝から「承太郎とポルナレフと買い物に行く」と言って出かけていたのだったな、と思い出す。束縛したいわけではないし、そもそもアパートも解約させて普段の大学にここから通わせているわけだし、と思いつつもジョースターのところの空条承太郎と思ってしまうのもあるし、何かと理解している兄のようなポルナレフ、というのもある。
「今日は何かあったのか? ここまで連れてきてくれた二人にも連絡をしておきたい」
「……あ」
そう言えば小さく言ってこちらにしがみついてきた典明の髪を撫でて、それからそれが今回の過剰摂取自体や二人にも心配や迷惑を掛けたことへの申し訳なさから来ているのだろう、と思ったが、それにしても反応が少し不自然に思えて、何かあるのか……?
「どうした?」
「そ、の……二人には、自分で言いますから、ディオからは連絡しないで」
「? どうした、そうは言っても一応お前の体調の報告というか」
疚しいことがある雰囲気には見えないし、思ってもいないが、なぜわざわざそう釘を刺す、というのが一点と、それからそう言われても、詮索云々以前にここに運び込んだのがあの二人なわけで、と言おうと思ったらぴとっとくっついてきていた典明に乗り上げられた。
「なんだァ? 何か隠し事でもあるのか?」
「な、なにもない! 別に、二人を使ってバレンタインとか選んでいない!」
「……ほう」
「あ……」
……コイツ、自分で思っているよりも、さらに言えば周りに思われているよりも馬鹿というかアホだよなぁ……と思いながらうっかり言い洩らしたそれに笑って返してやって、乗り上げてきたその体を捕まえて、そのまま抱き留めるように固定して口づけてやれば困ったように目を泳がせるから、その視線も外せないようにもう一度深く口づけて視線もこちらを向くように顎を掬ってやれば、泳いでいた眼に涙がたまってきて、そのままこちらをにらむようにされたが、怖いどころか可愛いだけだな。
「誰に渡すんだ? 私以外ならどうするか」
「ディオ以外に渡す相手なんていません」
「ならいい」
そう言ってもう一度口づけたらぽすっと肩口のあたりに落ちてきたから、ベッドの中で戯れのまま抱き留めれば、そのまま耳まで赤くして、言い訳のように彼は言い募る。
「これでも結構困っていたんです! バレンタインなんてもらうこともなかったし、もちろん今までに渡す相手もいなかったからどんなものが主流かも知らない。料理はできても菓子の手作りなんて無理だから既製品としても、そもそも君の好みのチョコレートってなんだよ!? どうせぼくみたいな学生じゃあ手が届かないだろ、とか考えて考えて、最終的に承太郎とポルナレフに訊くことにしただけだ!」
「まあ、お前らしい結論の出し方だな」
「やめろ、ぼくに二人しか友達がいないみたいな言い方」
「そうは言っていないだろうが」
そう言ってぽんぽんと頭を撫でたら、甘えるようにくっついてくるのだからそれで十分だなんだがな、と思ったが、かなり必死になっていたと思うとこの恋人が愛おしくて仕方がなくなる。
「ていうかバレンタインなんて日本だけだろ!? イギリスにチョコレートを渡す習慣なんて絶対ない気がするし、だから、いろいろ……笑われるかもしれいないし、考えて……」
「そんなことはどうでもいい」
「んっ?」
そう言ってもう一度口づけて、抱え上げていたのをベッドに置いて、撫でたり抱き込んだりしながら感触を楽しみながら何度もついばむように口づけていたら、くすぐったそうに典明が身をよじる。
「ちょっと、なに?」
「いや? 『恋人』というふうに思ってもらえているのだな、と思って嬉しかっただけだが?」
「〜〜!? わざわざ言うことでも、いや、バレンタインのチョコレートをわざわざ選んだのはぼくだし、あの、その……!」
ぱたぱたとベッドの中で抵抗とも言えない可愛らしい動きをする彼の肌に赤い痕をつけて、笑ってやる。
「少しは浮かれてもいいということか? お前の恋人で伴侶で番だと自信を持って浮かれてもいいのかな?」
そうからかうように言ってやったら、はっとしたような顔をされてから、典明の方から口づけられて、そうしてはむはむと首筋や肩口に唇を寄せられた。
「……オイ?」
「痕の付け方、分からない」
「……は?」
からかっただけのつもりだったのだが、と言いさしたのに、いたって真剣な顔つきで首やら肩やらにキスなのか、それとも噛み付いているつもりなのか、柔らかい感触で唇での愛撫を繰り返しながら、むくれたようにそう言われる。何を、と思っていたら、視線がかち合った彼に言われた。
「浮かれるとかじゃあなくて、ディオ以外いないし、ディオ以外駄目だって言ってるのに、信じてくれないのか?」
「お前なぁ……」
「……? わっ!?」
冗談のつもりだったそれに、そうやって必死に応えようとしてくれる典明があんまり可愛くて、そのまま抱きしめる。驚いたようにしている彼の首の証とは逆の方に軽く口づけて、それから痛みが出ない程度に歯を立てて吸い付いてみた。
「んっ?」
「ほら、こうやるんだ」
「え?」
「痕。私のものだって意味だよ」
そう言って付けたばかりで少しずつにじんできたキスマークをなぞってやれば、驚いたように彼はこちらを見る。
「……バレンタインまで練習します」
「練習? 誰で」
「……ディオで」
恥ずかしそうにそう言われたそれは、典明としてはずいぶん頑張った方の告白かもしれないと思えばやはり愛らしいな、と思いながら肩口を晒してやったら顔が赤くなるが、互いに裸なんだがな?
「ああ、チョコレートに、それからその晩のことも楽しみにしている」
「そういう、そうだけど! 分かったけども!」