老いる


「いつか」

 腕の中でまどろむ望美ちゃんがぼんやりと言った。
 もう寝よう、と言って少したった時だった。
 月の光が明るくて眠れないのだ、と彼女は言っていた。



「いつか景時さんも私も歳を取ってね」
「うん」

 寝言のような、それでいて何かとても大切なことを告白するような、そんなどちらともとれるゆっくりとした調子で彼女は言った。

「私はすべてを告白するの」





「いつか」


 私の言葉は夜の闇に融けた。それでよかった。そのいつかはまだ今じゃない。
 私も景時さんも年老いて、そうして私が全ての罪を告白できるときもあなたが隣にいてくれることを私は信じている。
 私はきっと、その時にならないと私自身の罪を告白できないだろう。



「私はすべてを告白するの」


 私たちが年老いて、そうして私は初めて、時空を超えて、あなたの死を、あなたの覚悟を消し去った、私自身の罪を、初めて告白するだろう。