落ちる


 生まれ落ちた眠七號という存在に、俺はひどく心酔していたし、安堵していた。
 ああ、もうこの少女を害するものはどこにもいない。
 この少女は成長し、ゆっくりと世界にひたり、前進していく。


 そう思っていた。


「三席…三席…」
「……あ?」
「お目覚めですか」

 ネムに揺すられて俺は目を覚ました。資料を整理し始めて、そうしてそのまま落ちたらしい。

「お休みになるなら寝台に。あとは私がやりますので」
「いや、お前こそ休め」

 ああ、戦いが始まってしまう。
 ああ、またこの少女が巻き込まれてしまう。

 あなたは俺よりも強いから。
 あなたは俺よりも脆いから。
 あなたは俺よりも優しいから。

 だから行かないでほしいのに。

 生まれ落ちる、ひどく狭隘な叫びは、だけれど言葉にはならなかった。