染みる


「晴れた」

 青空が目に染みる。梅雨が過ぎたと思ったら一気に夏が来た。待てど暮らせど晴れなかった長梅雨は、私にとっては良い雨で、さらさらと降る雨にひどく心が踊ったが、夫である柔造にはどうにも面倒なようだった。隊服は濡れるし、袈裟も濡れるしと彼は言っていた。

『それにお前の傷に障る』
『そんなんないわ。もう大丈夫やてお医者様も言うてるやろ』
『そういうのとちゃうわ』


 ぶつぶつ言って出勤した彼の白衣を干そうと思って庭先に出たら、ひどく青空が目に染みた。そうして一言「晴れた」と言っていた。
 確かにテレビの天気予報では今日から関西は梅雨が明けて一気に夏、と言っていて、お母様と「暑くなって嫌ね」、なんて話をしたところだった。
 実際に洗濯をして、外に出てみると、何日ぶりかの青が染みるように空を覆っていた。

「まあ、洗濯物にはええわな」

 そう言って私がバサバサと白衣を広げていると、ひょいとそれを横からとられた。

「なん?」

 気が付くと非番だった夫がそれを取って物干し竿に掛けようとしていた。

「お前、あんまし無理すな」
「無理て。ただの洗濯や」

 私が言うと、柔造はぽすっと私の頭を撫でた。

「晴れたな」
「うん」

 そんな平凡な会話がまたこの男とできる日が来るのだと思っていなかったから、私の目からはなぜかじわりと滴が染みた。

「しわになるわ、こんな干し方じゃ」

 私はだから、それを隠すようにそう言って、青空を見上げながら洗濯物を干し直した。