冬季営業
「君たち大学生なの? そこの?」
「はい」
控えめだけれど確かに、というか自分がそうだから、なんて言ったら歳三さんに怒られそうだけれど、近藤さんに夢中になっているような女の子三人くらいかな、そんな子たちの声が聞こえた。
「ふうん。ああこれコーヒーね。総司、ケーキあるかな」
「あ、はい」
「おい、こっちの」
歳三さんに手を引かれかけたその前に近藤さんがひらひらと手を振ったのに歳三さんがものすごく舌打ちしていたけれど、ケーキを運んで彼女たちの前に一つずつ置いていく。ええと、イチゴとオペラとモンブラン。
「すみません、今日はこの三つしかなくて。皆さんが大学からいらっしゃってくれるなら選べるようにしておきますね」
「私はコーヒー淹れるのはいいんだが、ケーキはこの子が作ってくれるからねえ。また着た時には増やせるように頼んでおくから」
近藤さんに言われてドキッとしたような女の子たちの表情が羨ましいなと思ったけれど、それ以上に近藤さんから言われたことにびくっとしてしまう。
「総司ー、私にはケーキないのー」
「お仕事してください!」
*
「すみません、冬場は事務所を閉じるので」
「近藤さんから伺っています。確かにおもしろいやり方だ」
「しかしご希望からするとおそらくジビエは割に合わないですね。安定しているのは鳥になるでしょうが、冬場は痩せますし、それも安定しない。うちで今扱っているのが鶏肉……町内の養鶏場さんと連携している物なのですが……総司」
歳三さんに呼ばれて、あ、商談の方、と気が付いて言われていたローストチキンと資料を持っていく。それからケーキとコーヒーも持っていったらお相手の方に笑って会釈されたけれど、一年事務所に勤めていてもこういう時の対処法が分からないのは多分私はまだお子様なのでしょう。
「ああ、申し訳ない。あまり慣れていないもので……妻の総司です」
「あの……」
「ああいえ。披露宴に臨席できず失礼しました。近藤さんの妹さんでしたね」
「ええ、兄があまり表に出したがらないもので」
「そうですか? 土方さんもずいぶんだと思うが」
「……どうも」
「あの、あの……」
「ああ、総司さんが作ったケーキですか。料理上手なのですね、今年は看板娘が増えて良かった」
「あんまり良くないです」
歳三さんが本気でため息をついてしまったところで困ってしまったのに相手の方はケーキを食べてくれたのに何かしてしまったかなと思ったら、近藤さんがそこに来ていた。
「あ、あの」
「ああ、どうもお久しぶりです。どうです? 弟で話になりそうですか?」
「勇君がジビエはまだしも喫茶店にまで手を出すとは思っていなくてね。狩猟免許は取るだろうと思っていたが」
「農業の傍らですよ。それにそこの肉は養鶏場さんだからそちらの方も見て行っていただきたい」
「妹さんがいるのも知らなかったな。近藤組の若社長は知らないことが多いからうかつに手が出せない」
「それはどうも。前向きにお願いしますよ」
そう言って近藤さんがするっと私のことを抱き留めた。
「可愛いでしょう?」
「そうやって言いくるめようとする」
「あげませんよ?」
「だから、そういうところが君の悪い癖だから土方くんと話をしに来たんだ。この件は進めたいと思っているが、ジビエは保存や法廷規則がいろいろあるからとりあえず年末の鶏肉の入荷をこちらの町の養鶏場さんと、ということで土方くんと話をしていたんだが、不満か?」
「え、そうなのか歳?」
「馬鹿かあんたは……」
*
そういう遣り取りをしていた取引先の方と歳三さんのところに何度かコーヒーを運んで、そうしていたら言われた。
「そういえば総司さん……ん? 旧姓で近藤さんの方がこういう場では合うのか?」
「いえ、出来れば土方でお願いします名前も呼ばないでください」
「土方くん大丈夫かい?」
「大丈夫じゃないです」
「ええと、君たち本当によく分からないな? 土方さんは旅行とか……ああ、そうじゃなくてね、私はだいぶ離れている方から来ているから海っ端の一帯を経営していて。土方くんはけっこうな甲斐性なしだからこれ渡しておこうかと思って持って来たんだが」
「……?」
そう言ってその方は封筒を私にくれて立ち上がってしまう。え?
「それじゃあこの話は一旦これでまとまった、ということで」
「春先にまた一応見直しますか。それと魚介の件は俺が改めて行きます」
「それはよろしく」
そう言ってその人は喫茶店から行ってしまった。
それをカウンターから眺めていた近藤さんがため息、というか呆れたような息をついていたらケーキを食べてコーヒーを飲んでいた大学生さんたちが言っている。
「商談って言うのかなあ、喫茶店で? すごい」
「カッコいい感じする。あの、お兄さんもそうなんですか?」
「君たちねぇ、やめときなさいって。『よろしく』でとりあえず書面もなしに済ます商習慣なんて田舎のヤバイ例の際たるものだから憧れない方がいいって絶対」
そう言ってコーヒーのお代わりを注いであげてから笑った近藤さんが重ねて言う。
「それに私みたいな男に憧れるのもやめなさいね。ただのコーヒー淹れるの得意なお兄さんですから」
「えー、だって若社長って」
黄色い声、と思ったらカウンターでふと引き寄せられた。
「ごめーんね。あのヤバイおっさんの言う通り、近藤組の若社長さんはうかつに手が出せないし妹以外興味ないの」
キスはやめてください!
*
「お客さん減りますよ」
「別に趣味でやってるんだしー」
「節度を守れ、というか俺の嫁だ、いい加減にしろ馬鹿兄貴……そういや総司、なにもらったんだ?」
「……お宿の予約券?……ここ有名なところです! 日本海の、夕日の見える宿!」
「ああ、あの人の経営している……それはそれとしてこの子は甘やかしたくなるフェロモンでも出てるんだろうか、やっぱり表に出すべきじゃない」
*
「近藤さん、俺たち今日こっち泊まるわ」
「ん? どうかしたか? 明日休みだぞここ?」
喫茶店の閉店時間のあと、キッチンに籠ってしまった総司のことを考えて近藤さんに言っておく。
「仕込みってのも違うか。ケーキの数増やしたいからそれの試作品とか言ってたか」
「はああああ!? だから俺は何度も言ってるけども、総司が秋冬のこっちの営業手伝ってくれる分の必要最低限の営業に関わる資格とかは取ってくれたの助かるけど、あの子パティシエとか目指してるんじゃないだろうな!?」
ブチギレ気味の近藤さんなんだが、だがそうは言ってもだいぶ……
「あんたのせいも入ってるんだし」
「俺の何が悪いんだよ、言ってみろ」
「オラついてんなあ……」
今頃キッチンでせっせとケーキ作り……食品衛生法の許す範囲で、とはにかんでいた妻のことを考えながら怒りたいのはこっちだ、と思いながら義兄に言う。
「だったら言うがよ、あんたがいちいちモテるからだろうが」
「あ?」
「いやこれ言いたくねえけど、言ったら負けな気がするから言いたくなかったんだけども、あんたがいちいち若いオンナノコに構ってモテてお兄ちゃんしてるの見て妬いてるってか、妬いてるとも違うな、あいつそういう馬鹿な考え持ってねえ働き者だし。自分に出来ることが甘味作るくらいしかないなってなってる、みたいな」
改めて今年から一日常駐できるようになった喫茶店の営業は、主に俺がキッチン、というか飯担当で、この人は接客と飲み物、そんで総司は別に何もしなくていいと言ったんだが、製菓……簡単な焼き菓子やケーキを作るようになってしまった。
『お料理は出来ないので……製菓も限られた範囲ですが、その、近藤さんのコーヒーに合うの考えますね』
そう言っていた時にしまっておくべきだった。何とも言えず可愛らしいがどことなく何もできない、みたいな顔をされたのが悔しいし、それ以前に夏の仕事の合間に製菓の資格もいくつか取っていたのは知らなかった。見張っておけばよかったし、そもそも去年やその前から営業形態は知っていて、総司も見ていたのはそうだった、とそこに至って思い出したのが馬鹿だった。
「え……うそ……」
「ある程度の範囲はいいと思いますよ、コーヒーでのホスト営業。ただ妹のことは傷つけちゃったみたいですね?」
「え……」
「そういうワケでこっち泊まるわ。あいつ何だかんだで凝り性ってか、近藤さんのため、みたいになってるし、総司の気が済むまでやらせて飯食わせてこっちで寝かせとくから」
そう言ってひらひら手を振ったら立ち上がられた。帰れよ、と思ったがまあ帰るワケないわな……。
「俺もこっち泊まる。分からせる」
「やめろよ……」
*
風呂上がりのほかほかした総司は相変わらず美味そうだな、と思っていたら、さっそく変なのに食われてやがる。部屋に入ってくるなり近藤さんがベッドに連れ込んでキスしてパジャマを脱がせ始めてと、この人、ほんとに俺の嫁さんだって分かってんのか?
「んっ、あっ、なに?」
「総司可愛い」
「んっぁ」
べろ、と殊更に舌を差し入れて唾液を絡ませるのは捕食対象にでも見えているのか。
「今日は何もしなくていい。俺のせいだから」
「?」
「ああ、ちゃんと歳ともやらせてあげるからね。邪魔しに来たのは俺だし」
「分かってるならいいけどよ」
あー、ほんとに分かってんだろうな? 目がキマッてるってか、完全にやべえじゃねえか。自分が嫉妬されてたとかそういう以上に、自分が理由で献身的になっていた総司なんてもう近藤さんからしたら殺戮対象だからな。
喜ぶなんてあり得ない。むしろ思考を書き換えて抹消したいくらいだろうよ。
「可愛い、可愛いけれど駄目だ」
「あっ、んっ」
「声を抑えるのをやめなさい」
「あっ、やっ、なんで、おこって! ごめんなさい!」
「謝らなくていい」
「ふぁっ、んぁっ」
近藤さんに胸を弄られて、そのまま耳許で毒を流し込むように囁かれて、助けを求めるようにびくびくとこちらに手を伸ばしてくるが、邪魔をしたら何されるか、というよりもこうして分からせた方がいいか、と静観していたらその手もすぐに力を失ってしまう。
「おにいちゃ、ん、ごめん、なさい」
「総司は謝るようなことをしたのか?」
「んぁっ、だめ、噛まないで! やっ」
ガリ、と乳首を噛まれて跳ねた体を抑え付けて、近藤さんの欲に濡れた、それなのに冷たい目が総司を見下ろした。怯えたようにしている小動物を追い詰めるように。
「総司、嫉妬はいい。嫉妬は嬉しい。だが駄目だ」
「え?」
「俺のために頑張ってくれる総司は嬉しいし可愛いが、嫉妬しているならそう言ってくれないといけない」
「ひうっ、ちがっ、だって、おにいちゃんのためっ、あっ、んんっ」
「それが嫉妬でなくてただの献身なら俺は許さない」
「あっ、まって、まって、だめ」
ああまあピル飲ませてるし、ゴム付けてるしいいかーとか思うのは俺も倫理観とか貞操観念とかヤバいのかなとか思っているうちに、大して解してもいないそこに突っ込んでる近藤さんに狂気じみたものを感じながらも、分かるところもあって眺めてしまう。
「いたい、あっ、んっ」
「すぐ良くしてやる。ほら、馴染んできた。総司は俺が大好きだから」
「んっあっ、なんでおこって? こんどうさん、あっ!」
ぐちゅ、と馴染ませると言うよりは分からせるように犯す近藤さんに腕を引かれながら鳴く総司に覆いかぶさるようにその兄は口付けた。
「嫉妬はいくらしてもいい。嬉しいばかりだ。だがそれでおまえが負担を感じたり、俺に引け目を感じるなら、今すぐにでも閉じ込めておかないといけない」
「あっ、おく、だめっ、んっ」
「奥? 好きだろう?」
「あっまって、こんど、さ、おにいちゃ、いさみおにいちゃ、んっ」
「せっかくあの馬鹿な連中から俺たちのものにして、俺の妹にして、それなのにまだ心配ばかりして、可愛い子なのに分からないなら閉じ込めないといけなくなる」
「あっ、やっ、いっちゃう、いっちゃう、まって!」
「勝手にイっていいと誰が言った?」
「あ……んっ」
「いい子だ」
「あ……あっ、ごめん、なさい、だって、くやし、くて……おにいちゃん、とられ、ちゃう」
「嫉妬なら嬉しいな。今度は俺がとられないように俺の分だけ特別なケーキでも作ってくれないか?」
「ん、わかりました、つくるの、おにいちゃんの、んっあっ」
「総司はやっぱり可愛い。ああ、今度はイってもいいぞ? ほら」
「あっ」
*
「やりすぎ」
くったりこちらに寄りかかる総司を抱き留めながら近藤さんを睨みつけた。分からせるというよりももうなんというかとにかく……。
「だって総司は昔から自分のことに頓着がないからさあ。どんぐり拾いの頃からね。自分が二の次なのが駄目なんだよ、今はもう俺の妹なんだからもっと横暴になればいいのに」
「あんたが横暴すぎるんだよ」
抱き尽くされて、分からされた、というよりは嫉妬していた感情を分からされた総司を抱き留めたまま口付ければぼーっと赤くなった顔でこちらを見上げてきた。
「としぞうさん?」
「ん?」
「歳三さんも、私のですか?」
「当たり前だろ。おまえが嫁さんだってことは俺はおまえの夫なんだからおまえのもんだ」
そう言ったらぶんぶんと尻尾を振る。……だめだ、可愛いな。
「じゃあ、わがまま言ってもいいですか?」
「無理すんなよ」
「無理じゃないです」
尻尾を振って耳をこすりつけて擦り寄って。
ああそういや、最初に兄貴が『邪魔しに来たのは俺』とか言ってたか。
「やさしくして」
伸び上がって口付けてひとことぽつんと言うそれが、どれだけ愛らしいか分かっているのかいないのか。
「優しく? 何を?」
「ん……」
「ああ、意地悪だったか。すぐやってやるよ」
指を絡ませて口付けて、呼吸を奪って噛み付いて。
「あっ」
「ったく、分かってねえから仕方ないとはいえ、夫の目の前で兄貴に抱かれやがって」
「ちがっ、んっ、あっ」
「こっちの方が好きだろ」
カリ、と乳首を軽くひっかけば尻尾が丸まる。そのまま首筋に歯を立てて痕をつけた。
「うーわー、マウント。夫マウント」
「マウントでも何でもないわ。頭おかしいのはあんたの方な」
「あっ、やっ、んぁっ!」
耳をこすって撫でて、胸を弄って、そのままもうどろどろの下を探る。
「い、れて、いれて、も、がまんしたくない、やだ、やだ!」
「いつにも増して可愛くてやらしくて悪くねえな?」
「ぁ……」
先端を宛がうだけしてやれば期待するように小さく声を上げてから、こちらに抱き着くように、だが羞恥心かそれとも正気でも残っていたのか少し逃げるようになった彼女をおさえる。
「いいんだろ?」
「んっ、あっ、ぁっ」
「ほしいか?」
「ん」
こくんと恥ずかし気に頷いた妻の奥までそれを入れ込んでやる。今更驚いたように小さな喘ぎをこぼした喉と、それから喜ぶように締まる胎内。
「気持ちよさそうだな、総司?」
「んっ、いいの、きもち、あっ、あったかい、の」
一気に入れたが軽くぐちゅぐちゅと遊んでやれば、もどかしいのか、それでも気持ちがいいのかふるふると震えながら可愛らしい声がした。
「としぞ、さんの、んっ」
「兄貴のもいいが旦那さんのもいいもんだろ?」
「ちがっ、あっ、ちが、ごめんなさっ、あっ、やっ」
「ああ、悪い悪い。ほら」
少し虐めすぎたか、と奥まで押し込んで、弱いところを責め立てて。
「誘ったのは総司だろ?」
「んっ、うんっ」
「ハッ、締まるな。そんなにいいか?」
「んっ、あっ、んぁっ……」
とろとろに蕩けた顔でこちらを見上げて欲しがって、誘ってくるくせに自信はない。自分のことは考えていない。こっちがヤリたいと思ってるからだと思えばいつでもなんでも差し出して。
「馬鹿だな」
「え?」
「それはまあそうだが、俺は近藤さんみたいに抱きつぶさない、一応言っとくが、そんな分からせ方はしないからな」
「んぁっ」
抱きたいのはそうだし否定もしない、出来ない。可愛い、愛している。その通りだし嘘じゃない。
だがこいつはいつも自分のことばかり後回しだ。頼ってくれるようにはなったし、愛していける、互いにそうやっていけると分かっていても、どうしてかこちらのことばかり考えてくれてしまう。
「ほんとに、人目にさらさないでしまっておくのが正解みたいになっちまうだろ?」
「んっ、あっ、ん……」
鍵をかけて閉じ込めておかないと、どこかでまた勘違いしてしまうんじゃないか。
「なんてな。中で出すから零すなよ」
「あっ、ぁ……」
とろんと受け止めた総司を撫でて抱きしめる。愛くるしいことこの上ない。
*
「総司は可愛いのだけれど、もっと嫉妬してわがまま言っていいんだぞ」
「そうだな、近藤さんくらいわがまま放題でもおまえなら何も誰も言わないと思うぞ」
「あの……」
「それだと俺がまるで常にそういう人間みたいじゃないか!」
「実際そうだろうが!」
そう言いながらシャワーを浴びさせて整え直したベッドで総司を二人して抱きしめて言い含めながらそういえば、と伝えておく。
「その実例だがな、あの後電話着てたから伝えとく。総司、昼にもらった予約券? 宿泊券あったろ?」
「はい、あの有名なお宿?」
「あの人あそこの経営もやってんだが、新婚旅行どうせ行ってねえだろうし、遠くまで行くの遠慮しそうだからだってよ。県内の日本海側なら遠慮しないで済むんじゃねえかって」
なーんで見抜かれてんだ、とは思ったがまあいいか。
「え、いつ行く? 本格的に冬だとあっちは波の花で車傷むしさー」
「新婚旅行だつってんだろ! 二人だ二人! さすがに三人で行ったら周りの目もやべえよ!?」
「じゃあその日、俺はその宿で適当な会合入れるから」
「やめろ馬鹿兄貴!」
2025/12/20