「どこにも行くなっつったら、笑うか」
「それは嫌味か?」
あの激闘の末、回復したひよ里は珍しくこちらに来ていた。嫌いだ、と言ってはいたが、所用だろうかと思ったが、そうでもないらしい。様変わりした技局を物珍しげにながめて、案内しろとのたまった。
じゃあ帰る、と言った彼女に、俺は先程の一言を言ってしまった。
嫌味、か。どこにも行くなと言ったって、彼女は自分の意思で何処かに行った訳ではないのだから、嫌味と言えば嫌味だし、笑うか、というそれも、嫌味に聞こえるだろう。
「悪ィ」
「ええわ、別に。お前の口が悪いんわ承知済みや」
一頻り案内が終わって研究室の椅子に座って彼女を眺めていた俺の視線の辺りに、彼女の胴がある。まだ包帯が巻かれているのだろうな、と思ったら、どうしようもないぐるぐると回転する熱量を伴った思考があった。
「どこにも行くな」
「戯れ言やな」
戯れ言、か。実際に言ってみたら、笑われはしなかったが、戯れとは言われてしまった。案外本気で、彼女がここに戻ってきて、と思ったけれど、それでどうするのかは全く分からなかった。
虚化や様々な制約は、やはり彼女を自由にはしないだろう。だけれど、今、彼女は自由なのだ、と意味もなく、訳もなく思った。
そうしたら、ひどく苛立たしかった。
どこにも行くな。
どこにだって行ってしまいそうな、彼女の腰あたりに、その訴えを届ける様に、俺は軽く触れるだけの口付けをした。
腰のキスは束縛