「うっわ!」

 ボンっというお世辞にも耳に心地よい音ではない破裂音がして、それからガシャンと実験器具のガラスが割れる盛大な音がした。一番最初が悲鳴だから、予想はしていたが、いつもながらひどい。

「またかよ」

 俺は思いっきり顔をしかめてその煙幕の向こうを見る。そこにいるのはやっぱり副隊長殿で、散乱するガラスの破片とよく分からない液体、そしてその中心でげほげほ言ってるひよ里を見た。

「だから、独自配合とかやめろよ。知識ないんだから」
「うっさいわ阿近!」

 最近彼女の中の流行は、その辺にある薬品を適当に混ぜ合わせて‘いい感じ’にすることらしかった(研究員としてはすごく大雑把で悲惨な内容なワケだが)。

「あーあ、どうせ片付けんの俺なんだから、考えてくれよ、馬鹿」
「バカとちゃうわ!っつ!」
「どうした…って、切れてんじゃねえか!」

 多分試験管を落とした時だろう。手の甲に一筋傷が付いている。

「片付けとくから四番隊行け」
「こんくらいなら自分で出来るわ」

 そう言って彼女は救急用の箱に手を伸ばしたが、如何せん、利き手だ。上手くいかないことは明白だった。

「副隊長殿、俺が手当てしましょうか?」
「気持ち悪いわ、阿近!」
「いいから手、出せよ」

 散乱している薬品は、どうせ寄せ集めだから大した脅威ではないので後から片付ければいい(爆発したけど)。
 浅い傷に消毒液を振りかけて、それから適当に包帯を巻く。

「こんなもんだろ」
「……悪かった」

 謝った彼女に、謝るくらいならもうやるなよ、と何度目かの思考が落ちたけれど、俺はその真新しい包帯の巻かれた手の甲に軽く口付けた。

「なっ!?」
「副隊長殿なら別にいいんじゃねえの」

 多少の我が侭は、と笑ったら、思いっきりはたかれた。


手の甲のキスは敬愛