横たわる彼女の閉じられた瞳。傷は思ったよりも深かった。だが、そんなもの挿げ変えればすぐに解決する。
彼女は永遠だ。彼女の肢体は、永遠に保たれる。唐突に消え去ったりすることはないだろうと思う。それくらいには完璧な存在だった。
美しいと思う。この世の何にも代え難く美しいと思う。だが、それは同時に絶望に似た何かを齎す。彼女の座る椅子に、誰かが座ることは、永遠にないのだ。それは己も例外ではない。どれだけの研鑽を積もうとも、どれだけの代価を払おうとも、彼女の座るそこに、誰かが座ることは永遠にない。彼女の存在が永遠である限り―
「逆もまた、然りか」
彼女は永遠に縛られる。繋ぎ止められる。それもまた、絶望に似ていた。誰ひとり、彼女を解放することはできない。
「永遠なんて、存在しない」
一方で、彼女もまた『永遠』など持ってはいないのだと、頭のどこかで分かっている。例えば、今ここで、己が手を止めて、バラバラに引き裂けば、或いは彼女も永遠を失うかもしれない。だが、そんなことをせずとも、いずれ、全ての事物は、壊れ、破綻し、混沌に返る。その時に、彼女が投げ込まれるのもまた、混沌なのだろうかと思う。彼女の座るそこには、何時とも知れず、混沌に投げ込まれた『少女』が座っていた。もうずいぶんと昔の話だ。
それでも、少なくとも、己が混沌へと返るまでの短い間に、彼女を失うことはないだろうという、驕りがあった。傲然とした思考だ。
「同じ轍は踏まない。俺は研究者だ」
同じ轍。再び『彼女』を失うような、そんな下手は打たない。少しずつ傷を付けて、少しずつ縛りつけて、離れられないように。
だけれど。と思う。どんなに手を伸ばしても、どんなに足掻いても、『彼女』が手に入らなかったように。
そっと瞼に口付ける。己が、永遠に立つことのない、そこに立つ少女の瞼に―
瞼のキスは憧憬