その線を、一周した。
ブラックダンス
この男は、本当に不確かなものでばかり出来ている気がする。
「結局」
私は少しだけ面倒になって、投げ出した足をばたつかせる。
「どこにも行けないのね、私たち」
「ほうか?」
そう言ったら、私の前に立つ彼はひどく可笑しげに笑った。
降りなきゃ。
なんのあてもなくぐるぐる電車に乗るなんて、本当に不毛だ。
こんなことを思いついて、あまつさえそれを『デート』と言ってのけたこの今吉という男のことが、私には分からない。
遊園地に行く訳でもなく、買い物に行く訳でもなく、ただただ、最寄りの駅から遠ざかって近づいただけ。
「私たちみたいね」
遠ざかって、近づいて、また遠ざかる。
あなたは何がしたいの?
駅のホームには、電車が巻き起こす特有の風が吹いていた。
「結局おんなしとこに帰ってまうとことか?」
「…」
まるで反対のことのようだ。
どこにも「行けない」と思った私と、どこに行っても「帰って」きてしまうと言う彼と。
同じところ?
帰ってくる?
不思議な感覚だった。
「ねえ」
「なに?」
「どうすれば今吉さんは納得するの」
口から滑り落ちた言葉は、ひどく頼りなかった。
それが音になってから、これじゃあまるで、引き留めたいみたいだと思ったら、なんだか悔しかった。
「相田さんは何なら納得するの」
おうむ返しのように言われた。
彼は薄く笑んでいた。
「馬鹿じゃないの」
だから私は悪態をつく。
馬鹿じゃないの、と。
こんなに馬鹿馬鹿しくて、虚しいあなたの遊びに、必死に着いていこうとするくらいには、納得しているのに。
「どこにも行けないわ」
だから私は、もう一度そう言った。
「行けやしないわ」
小さく言った私を、彼の大きな手が引き寄せた。
それでも。
どこにも行けやしないわ。
あなたの腕の中にすら。
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リコたんにはけっこう派手で辛い初恋があればよいよい。という発想。
2012/11/21 ブログ掲載
2013/5/23