さあ、何を賭ける?
バスケット?
体?
心?
恋?
愛?
賭け金
「あーいださん!」
またか、と呼ばれたリコはげんなり息をついた。
ウィンターカップの激戦からもう三月近く経つ。
が。
このところ、もはやつけられているのかという頻度で、街中で、"偶然"この今吉という男と出会ってしまっている。
会いたいなどと、一分も思っていないのに、相も変わらずリコは近くの喫茶店に押し込まれ―
「もうちょい可愛いもん飲まん?」
「…」
ブラックコーヒー以外の何ならこの男は納得するのだろう。癪だから口が裂けても言わないが、リコはその度に思う。
その一分も色気のない、そして美味しくもないコーヒーを一口飲んでリコは啖呵を切った。
「いい加減学業に専念してください!受験生でしょ!?」
その一言に、今吉はニヤリと笑う。
「受かってん」
「は?」
「相田さんが目指しとる大学と一緒やで」
「はあ!?う…そ…」
ばばーんと効果音でも付きそうな勢いで示された合格通知は間違いようもなく、彼女が進路調査でいつも第一志望に書く大学だった。
成績は所謂進学校でも間違いなく、上位でなければ、受験の機会すら与えられないだろう。受けたところで足切りにあう。
「今吉さんて、案外頭いいんですね」
そんな判りきったようなことをリコはつぶやいた。
「案外とは失礼な。やけどまあ、名将に頭いいて認められんのは嬉しいわ」
「っ!」
その笑顔に、リコは一瞬たじろいだ。
(何よ!)
へらへらしているくせに、"監督"としてのリコに接した瞬間にテンションを張り詰めた笑顔をされたのが、堪らなく苛立たしい。それにたじろいだ自分が腹立たしい。
「知っとる?」
「……何がです?」
ニヤリと彼はもう一度笑う。
リコの背筋は、今度こそゾクリと粟立った。
「君には大学を選ぶ権利がある」
「当たり前でしょ!まだ二年なんだから!一年あるわ!」
辛うじて言い返したら、今吉はやっぱりニタリと笑う。
「そう。ここ以外の大学行けばええだけの話や」
―――ワシから逃げたかったら―――
「さあ、賭けの始まりや。クラッチタイムはこっからやで」
そう言って、彼の細長い指が伝票を摘んだ。
彼女は動けなかった。
「退くも進むも、お嬢さん次第」
ひらりと伝票を翳して、今吉は笑った。
「頼むで。ベットたんまり積んでんねんから」
獰猛な笑みで、彼は言って、席を立った。
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BGM:恋わずらい(椿屋四重奏)
2012/11/21 ブログ掲載
2013/5/23