愛を告げる


『愛しとるよ』


 頭の中で錯綜する感情は、いつだって、結局笑ってしまいそうなほど単純な『あいしている』という一つの到着点に達してしまう。だけれど、それが音になって彼女に伝わることは、終ぞなかった。―いや、終ぞないだろう。

 かつては、それを言葉にするのはあまりにも白々しい気がして、まるで嘘八百を並べているように聞こえるだろうと思えて、口にしなかった。

 そうして今は、それが真実であることを彼女が知ってしまうのが怖くて、口にすることができない。

 冷えていく己の躯に縋る彼女の瞳から落ちるあたたかな滴が、或いは、からからに乾いてしまって、錯綜する感情の到達点を口にすることを放棄した喉を潤すだろうか、と詮無いことを考えた。