髪を梳かす

 銀糸のような髪に、黄楊の櫛を通す。飴色の櫛は、色素の薄い彼女の髪を綺麗に過ぎ去っていった。
 髪に触ろうものなら、叱り飛ばされ、喚かれるのが常だったが、最近はようやっと、髪を梳くくらいなら蝮も大人しくなった。

「まだ?」

 それでも、髪を弄られるのはあまり好きではないらしい。曰く、恥ずかしいから。可愛らしいことこの上ないが、それは言わない。―言った日には、ようやっとこぎつけた髪を梳かすことすら禁止されそうだ。

「もうちょい」

 そう言いながら俺は、ふとつげ櫛を手放して、それから彼女の髪を一すくい指に絡める。
 やわらかな髪だった。絹糸のように細く、やわらかな髪。

「っ…!」

 肌に一瞬その指が触れたら、蝮は驚いたように肩を揺らした。
 謝ろうとして、気が付く。髪を指ですくったことで露わになった耳が、真っ赤になっている。それで俺は、思わず―

「何すんの!」

 俺は思わず、その朱い耳に噛み付いた。