メールを打つ
蓮二さんのメールは、いつも簡潔で、まるで蓮二さんそのものみたいだと思う。
漢字が多くて、絵文字はなくて、不必要な改行もない。初めて見た時は、自分の打っているメールとのあまりの落差に驚いた。だが慣れてくると、彼はこうでないと、なんて思うほどになった。
不思議なことに、そのメールが冷たいと感じたことはない。多分それは、絵文字がなくても、綺麗にデコレーションされていなくても、蓮二さんの優しさが詰まっているから、なんて、乙女チックなことも考えたりする。
そう思う割に、私のメールは、相も変わらずなるべくにぎやかになるように工夫を凝らしている。今日の何気ないメールにも、絵文字がたくさんついていて、いい具合ににぎやかになった。
送信ボタンを押せば、そのメールはすぐに彼の手元に届くのだ。そう思う瞬間に、私は、やっぱりもっと折り目正しく、簡潔に、用件だけ書いた方が、蓮二さんも喜ぶかしら?と考える。それでもやっぱり、私は送信ボタンを押してしまう。―不思議なことに、喜ぶだろうか?と考えることはあっても、このメールを見た彼が失望するだろうか?という考えに至ったことはない。
お気に入りのアーティストの着信音を流しながら震え出した携帯を、私はベッドの上で開く。この時はいつもそうだ。何気ないメールでさえ、彼からのものだと思うと心臓がドキドキしてしまう。
彼からのメールはやっぱり丁寧で、私のちょっとした伝えたかった出来事に、彼の丁寧な言葉が入り込んで、それらは更に色を増す。そうしてスクロールしていくと、最後の一行に思わぬ言葉が入っていた。
『杏のメールはにぎやかでいいな。少しばかり見習いたいが、自分を変えるより、お前の明るいところを見ている方がずっと楽しいから、悪しからず』
それを読んで、私は思わず笑ってしまった。
そんなの、きっとダメなんだ、なんて考える。蓮二さんから簡潔で折り目正しい部分が抜け落ちてしまうのも、私から取り柄の明るさが抜け落ちてしまうのも、ダメなんだ。
私たちは、ちょっとだけあべこべな二人、くらいでちょうどいいんだ、なんて思いながら―