廊下を歩く


 トントントンと軽快な足音が廊下の方からした。それで僕はサボりに使っている二階の部屋の窓から少しだけ顔を出す。それは間違いようのない足音だった。

「副隊長」
「…え!?」

 軽快な足音はそこでぴたりと止まる。きょろきょろと辺りを見回しても、彼女は僕に気が付かない。
 僕はというと、窓から副隊長の前に飛び降りようか、それとももう少し困り顔を見ていようか、そんな事ばかり考えていた。
 そうしているうちにも、困ったように辺りを見回す副隊長に、僕はとりあえず頬杖をついた窓の桟から半身を乗り出す。

「副隊長、こちらです」

 それからもう一度言うと、やっと振り返ってくれた。

「荻堂くん!どうしたの?」

 不思議そうにこちらを振り返った副隊長は、案の定、「こんな時間に何してるの?」なんて野暮なことは言わなかった。野暮、というか、そんなふうに人を疑うことのない方なのだと知っているから、それがかえって微笑ましい。

「副隊長が歩いてくるのが分かったからお声を掛けただけですよ」
「よく分かったね」

 感心したふうにこちらを見上げる彼女に、僕は笑ってみせた。

「足音で分かりました」
「……それって……やっぱり私、足音大きいのかな?ほら、身長が高すぎるから自然と…」

 予想通りのことを言い始めた副隊長に、僕の笑みはますます深くなってしまう。

「副隊長の足音だから、僕には分かるんですよ」

 不思議な顔をした彼女に僕はやっぱり笑みが止まらない。そのままで、半開きだった丸窓を全開にして、今度はぐぐっと体を乗り出して、届く訳はないが彼女に手を伸ばす。

「こちらで一緒に休憩しましょう。お茶をお淹れしますよ」

 困惑した彼女がこちらに足を踏み出すまで、あと、数秒―