無謀

言葉が脳内を駆け巡る。
その一つ一つが、小さな幸せばかりで、己自身に乾いた笑いが漏れた。


『一緒に暮らそう』
『誰もいない場所で』
『静かに暮らそう』
『誰にも邪魔されない場所で』
『君が傷つかないところで』


その一つ一つが、今となっては無謀なことで、だから、彼女の瞳から滴が落ちる度に、その一言一言を言おうとして、そうして止める。
言ってしまったら、それは全部虚構になってしまう気がした。
口に出さずとも、それは虚構に過ぎないのだけれど。

そうしているうちに、喉がからからに乾いて、引き攣れた。声はきっともう出ない。

だけれど、そんなことより何よりも彼女に言いたかった言葉を、もう一度言いたいと思ったのに、その一言よりも、無意味な言葉ばかりが脳を走った。


その、無意味な言葉たちが、彼女の涙と混じったら、ひどくあたたかくて、失った全てに色が付く気がした。


二人だけの世界が、最期に色を帯びる―