Carry


「運んで行って」

どこか遠くへ、と私は呟くように付け足した。
そんなこと、出来るはずないと知っているくせに、どこか遠くへ、運んで行ってほしかった。

「一緒でええの」

そうしたら、彼は全く以て見当違いだけれど、見当違いなりに正しい言葉を選択してきた。成るほど、運んで行く、ということは、一緒に歩くことになるだろう。
そこで私は変な想像をした。キャリーバッグをガラガラ引きずる彼と私。行き先は、誰も知らない異国。キャリーバッグの中身は、彼の分はほとんどなくて、私の分は着替えも、化粧品も、恋愛小説も、何もかも潤沢に詰まっている。そんな、あべこべな想像。
 それも楽しそうだった。だけれどここからどこにも行けないのを知っている。
……どこにも行けないのは、私のせいだから、どうしてか、彼にここから連れ出してほしかった。


Please carry the girl to twilight