秘密主義
「ねー、まさ子ちん!いつまで黙ってるの」
問い詰めるような口調で言われて、荒木は少々ドキリとして、それから作り掛けのスープから目を離すと、お玉を持ったまま振り返った。
振り返った先に居るのは、元教え子で現恋人の紫原だ。
「俺、そろそろ我慢の限界なんですけど」
終いにゃ荒木家突撃訪問しちゃうよ、と言われて、彼女は今度こそぎょっとする。
「それはやめろ!」
「だってさ、一応結婚前提じゃん?」
反対されそうだから、とか、教え子だったし、とか、荒木がいろいろと理由を付けて、二人の関係は一部の人間を除いて未だ秘密である。
「なんか、いいだろ。だからもう少しだけ」
「は?」
きょとん、とした顔で訊き返した紫原に荒木はクスッと笑った。
「もうすぐばらすんだ。今だけはお前と私だけの秘密なんて、いいだろ」
すごく、と続けて幸せそうに笑った荒木の後ろで、幸せな夕飯がことことと音を立てていた。
君と私の秘密を愛す