懐疑主義
疑わしいことが多すぎる。
リコはぼんやりとそう思って、ブラックのコーヒーを啜る。彼―今吉の前でブラック以外の何が飲めるだろうと思いながら。
「それとも」
「んー?」
猫のような返答に、彼女はちょっとだけ目線を上げる。見上げる形なった男の顔から読み取れることは極端に少ない気がした。
「疑ってかかるのは基本かしら」
アナタ相手じゃ、と続けたら、今吉は楽しそうに笑った。
「ドクサの排除。哲学的やね」
ただ単に疑っているのに、独断の排除とは大きく出たものだ、とリコはぼんやり思う。独断の排除。独断も何もない。彼を何かの形で断ずるべき要素を、彼女はまだ持ち合わせていなかった。
だから、この懐疑的な感情は、少しも嘘じゃない、と彼女は思う。
「私のこと、本当に好きですか」
だから、この延々と続く懐疑は嘘じゃない。
「もちろん」
即答した男の顔を、リコは静かに見つめた。
懐疑の理由と証明を