幸福主義

幸せについて考える。
考えて、考えて、考えて、だけれどそれはいつも裏切られた。
家族みんなが、誰も欠けずに傷つかずに生きていくのが、幼い彼女と彼の幸せだった。だけれどそれはあっさりと失われた。多くの人が、そうして彼らの兄が、消えてしまった。

「考えても考えても」

柔造の腕の中で、蝮は小さく呟いた。
その兄の喪失を埋めて、幸せになろうと考えた。
そうして、自らの立ち位置を見定めて、考えて、考えて、家族を守ろうとした。
守ろうとしたら、もっと恐ろしいことが起きた。右目を失ったことなんて、‘家族’が危険にさらされたことに比べたら恐ろしくもなんともない。

「考えても、幸せになれんの」

泣き出しそうな声で言った蝮を、柔造は優しく、あやすように抱きしめる。

「俺はいっつも幸せやけど」
「え?」
「ん?蝮がそこに居るからな」

彼の示すそれが、なんて単純で、明朗で、そうしてあたたかい幸福なのだろうと思ったら、泣き出したくなった。

幸福は貴女のためにある