虚無主義

ひよ里という死神は、別離をほとんど受け容れていた。
阿近という死神は、空虚をほとんど受け容れていた。
彼の中にあるのは虚無だった。しかし、彼は自ら望んで虚無を受け容れる。

「いないってことだけで」

フッと煙を吐き出したら、面倒そうにひよ里はそれを払った。払っても、霧散したそれは煙たく狭い部屋に充満した。

「いないってことだけで、俺は充たされた」

その歪な感情に、ひよ里は郷愁に似た感情に襲われた。

「お前がいない、その虚無が、俺を立たせた」
「世話ないわな、そんなんやったら」
「ほんとにな」

会話は短い。かつての部下で、かつて幼かった男が、己の消失によってそう思うそれが、ひよ里にはひどく懐かしかった。それは、別離を受け容れながらこうして断片的にでも取り戻すことが出来たからかもしれなかった。

「お前がいたら、俺はどう生きればいいんだろうな」

皮肉げに彼は言った。ひどく倒錯的な、愛だった。

虚無を埋める貴女を求める