眩む
眩む。暗む。眩む。
走れば走るほど、息が切れて、視界が暗んで、己の体力の無さ、というものを阿近は思考のどこかでぼんやりと認識していた。
そんなことを認識してしまう程度には、雑多な思考を追い遣ろうと必死だった。
残務処理とか、事後処理とか、もう何もかも部下に押し付けて、走る。ひたすら走る。
「ひよ里…!」
全ての戦いが終わったあとの彼女は、未だ目覚めていなかった。
息が切れていた。視界が明滅していた。視界がはっきりなんてしない。
だけれど、走って走って辿り着いたそこにいたのは、間違いなくひよ里だった。
百有余年の月日が落ちる。
「うっさい、な」
何度も名を呼ばわれば、彼女はゆっくり目を開いた。
「ほんまに、ちょこまか、相変わらずやな」
泣き出しそうな彼の髪を、どうにか伸ばした彼女の手が優しくかき混ぜた。
世界が眩む日