巡る
月日が経つのが早い。
いつの間にか、誠凛バスケ部にとって、リコにとって最後の大会も終わっていた。
カチカチとシャープペンシルから芯を出す。受験勉強だった。
受験勉強をしていてやっと、カントクと呼ばれることも、監督と呼ばれることも、もうないのだ、と実感して、彼女は妙な気分になった。
「アイデンティティ」
嘯いたら虚しくもある。そんなに大それたことじゃない。アイデンティティなんて言わない。だけれど、高校生活の三年間はバスケットが全てだった。
その‘全て’を簡単に捨てていく自分、というものを、リコは俯瞰するように見ていた。
「私はどこに向かうの?」
バスケットという共通の項目が無くなっても、だけれど彼らは走り続ける。
月日は巡って、彼女を置き去りにする。
「どこなら、相田さんは納得するの」
自問には返答があった。西の方のイントネーションのこの今吉という男は、ではどこに向かうの?と彼女は思う。
「あなたも置いていくかしら」
「さあ」
酷薄に、それでいてやわらかに、男は言った。
季節は巡る私を置いて