な
なぜ、という言葉ばかりがあての口からは零れる。
なぜ、優しくするの。なぜ、傍に居てくれるの。なぜ、なぜ、なぜ。
答えなんか、本当は分かっている。彼があてを愛してくれるように、あても柔造を愛しているのだから。
だけれど、己の裏切りを、罪を、罰されたいと願うあては、彼を受け入れることをどこかで拒む。
「なぜ」
「好きやから」
単純明快な答えが返ってきて、あては眩暈がしそうだった。眩暈がしそうなほど、この男に酔っているのを知っている。知っているから、なぜ、なぜ、と子供のように繰り返す。
「なぜ」
「もうそろそろ諦めつくころやろ、お前」
見抜かれていて、あてはもう一度『なぜ』という意味のない問い掛けをすることが出来なくなってしまった。
何故なんてない。罰されたくても、罪を償うとしても、あてが柔造をずっと好きだった事実も、これからも愛し続けるだろう事実も、一つも変わりはしないのを、あては知っていったから。
さようなら、意地っ張りな私