弁当


「これが唐揚げでこれが卵焼きで」
「え、道満が作ったの?」
「ンン?なんです、その反応は。エミヤ殿に台所をお借りしまして」

 ええ、と思わずうなったら楽し気な道満からにっこりと笑われる。

「いえ、シミュレーターとはいえマスターと散歩に出かけるということで拙僧も楽しみにしていたと言いますか。思わず弁当を拵える程度には楽しみにしておりました」
「ええ……道満が……」

 パカッと弁当の蓋を開けて中身を滔々と説明する道満に少しだけ怖くなる。何も入ってないよね、これ?

「マスターが考えていることを当ててみますが、何も入っていませんよ、調味料と材料以外」
「まあ、エミヤ監修なら問題ない、かなぁ?」

 そう言ってお腹が減っていたことには違いがないので唐揚げに箸を伸ばそうとすれば、道満がにっこり笑ってそれを制する。

「せっかく拙僧と一緒にいるのに、他の男の名前を出すことはないではないですか」
「え?」

 いつにも増して饒舌な道満が笑ってそう言って、紙皿に取った唐揚げを私の口許に持ってくる。

「はい、あーん」
「いや、なんか今日道満怖いよ」
「怖くないですって。儂がこうしたのですからマスターもしてくださいね?」
「ええええ」

 弁当を作ってくれただけでなく、いつもよりもずっと饒舌に、楽し気にそう言った道満に、空を見上げながら唐揚げを頬張る。シミュレーターの作り物とはいえ、行楽日和だなあ、なんてどうでもいいことを考えながら唐揚げをもぐもぐ食べた。

「あ、美味しい」
「それは重畳」





 なんというか、だ。マスターと出掛けるこれは所謂逢引きというやつでは?と思ったが、まあそんなこともないのだろうと知りつつも、思わず弁当まで拵えてやってきた自分に苦笑する。

「美味しいですか?」
「美味しい。思ってたより美味しい」
「一言余計です」

 マスターを小突いて今度は卵焼きを差し出せば、雛鳥のようにぱくりとありつくマスターに、ここまでしてしまう自分がどこか不思議だった。

「何と言いますかねぇ」
「え?」

 不思議そうにこちらを見上げたマスターに、いつもよりも饒舌になっていた口を閉ざす。
 何と言えば良いものか。
 たかが人間の女の童一人にここまで執心するとは、自分でも想像がつかなかった。

「貴女は面白い」
「……どういう意味?」
「そのままの意味ですよ。貴女といるのは面白い」
「?」

 不思議そうにしたマスターに構わず、自分も弁当を一口食べる。自分で作ったとは思えない出来だが、エミヤ殿には感謝ですね。

「貴女は飽きない」
「というと?」

 ぱくりと握り飯を食べたマスターに問われる。
 面白おかしい訳ではない。
 何かの才に秀でている訳でもない。
 だが、この女の童に従うのは苦ではなかった。それも、ただ横にいるだけで満たされる。

「ヒトなど疾うに飽きたと思っていたのですが」

 貴女はどうにも面白い。そう口にはせずに儂も握り飯を一口食べる。

「地獄の底までお供しますよ、マイマスター」

 だけれど、とりあえず今は、ピクニックでも逢引きでも、お供しますよ、マイマスター?




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第50回リンぐだ♀ワンドロライ、お題『弁当』『饒舌』でした。ありがとうございます。
リンボとマスターが散歩に出かけています。いつもよりも甘いかもしれない。

2022/4/30
2022/5/6 サイト掲載