閑話・亡羊
「堅物君ってさ、はじめのこと好き?」
「あ?」
そこまで剣呑な顔する話題かなあ、と思いながら彼を見るが、いつも通り眉間に皺を寄せた彼の真面目そうな表情にどこか何か、俺の感情が可笑しいのかな、なんて無意味なことを思った。
「二択にしようか?はじめのこと、好き?嫌い?」
「なんでお前にそんなこと答えなきゃならねーんだよ」
「だって……」
堅物君のとこのはじめも、ケーキの彼のとこのはじめも、もしかしたら俺のはじめも、だけども。
「世界線違うから言っちゃうけど、俺さ、前の組の頃からはじめとはカラダの関係あってね」
「聞いてねーわ!」
叫ばれたが、少なくとも堅物君はまだ引き返せるから、と思って続けた。
「俺も気付いてなかったかもしれないけどさ、俺、たぶんずっと」
はじめは弱いから、本当ならケーキの俺みたいに興味がなかったかもしれない。
はじめは真面目だから、本当なら堅物君みたいに全部拒んで拒まれたかもしれない。
「好きか嫌いかの二択は、たぶんずっと分からなかった。それは俺たち三人全部そう、たぶんね」
「なに言ってんだ?」
だから、じゃないけど。
だけど、だから、お前はまだ間に合うよ、なんて俺はどの面提げて言うんだろうね?
「だけど、ずっと、昔から、今もずっと、はじめのことを愛してはいたよ」
そう告げたら、何か噛みつかれるかな、と思った堅物君は亡羊とした、それでいて透明な視線で俺を見た。
「ずいぶん、身勝手な忠告だな」
「なんだよ、分かってるんじゃん」
「岐多くして羊を亡う、か」
「そーいうこと。顔そのままだよ?」
そう言ったら、ケーキを携えた『俺』が部屋に駆け込んできた。
「なんの話ー?」
「羊を見失っちゃった話」
笑って言ったら、彼は首をかしげた。
どっちに行くんだろうね、俺たちは。