選ぶ
呆れるほどに悔しくて。
呆れるほどに弱かった。
「天才なんて嫌いなんですよ」
「ふーん」
歯を食いしばって鍛錬しても、その女には届かなかった。
血が滲むほど努力しても、その男には届かなかった。
「そんなこと言ったってさ、どうせ人殺しの手段じゃん」
その才能が欲しかった僕に、永倉さんはあっさり言った。そう言って、バンと無遠慮に背を叩く。
「そんな才能あったところで、役に立つもんでもないって」
「うるせーな」
それしかないんだから、仕方ないだろうと思った次の瞬間に、彼は立ち上がる。
「それしかないようなところで、誰かの下でそんな才能使うほど、俺は馬鹿じゃないんでね」
「……」
「じゃあね、はじめ。次に会えたらお互い剣なんて持ってないといいけど」
最後の最後まで、永倉さんは笑って、だけれど、それでも。
「やっぱり局長と副長は許せませんか」
「知らね。二人とももう違うから」
何が違うのか、と問おうとした僕に、彼は笑う。全て分かっているように。
「ガキにはどうせ分かんねーだろうけど、俺は好きにするからさ、はじめも好きにしな。来る?」
どこに行くと言うのだろう。もう終わりだなんて分かっているのに。分かっているのに、どこに行くんだと追いすがろうとした自分に、彼がもう戻ってこないことなんて分かっているくせに、と妙な気分で思った。
妙な気分。
上から誰かを見下ろすような、自分自身を見下ろすような、妙な気分。
「行きません、俺は副長に着いていくから」
「選べるじゃん、その気になれば」
「……そうかもしれませんね」
選べたのだろうか、選んだのだろうか。
僕は、俺は。この人は、或いはもっと他の誰かは。
「もっと別のことも、自分で選べよ、これからは」
「……それもそうかもしれませんね」
「素直なはじめ気色悪ぃー」
笑いながら、その人は歩き出した。もうここには戻らないと知っていた。
「どうせ俺は、自分じゃ何一つ選べないままにここまで来たよ」
たぶん、きっと、これからも。
あんたがいなくなってからも。
あんたを追いかけることも出来ないままに。
「選んだわけじゃ、ないんですよ。たぶん」
あやふやな答えさえ、あんたは知っていただろうけれど
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2023/7/23
2023/10/11 サイト掲載