jealousy


 きゃらきゃらと、まるで女の子みたいに笑う沖田、というのがどうしてか小骨が喉に刺さったように疼くと斎藤は思った。信長公たちと楽しそうに話し、綺麗な着物を着て、袴を履いて、当たり前だけど下着をつけた彼女は、自分の知る彼女ではないような気がした。

「あ!斎藤さん、今ノッブがですね」

 そう言って駆け寄ってきた彼女を壁際に追い込んで、彼は思わずその壁をドンと蹴った。

「信長公が?なに?」
「は…い?」
「沖田ちゃん、ちょーっといい?」

 斎藤の足にせき止められて、いや、反対側に行けばいいだけなのに、突然のことに固まった彼女を見ながら、さて、これで何を言えばいいのか、などと馬鹿みたいなことを考えた。

「斎藤、さん?」
「楽しそうだね」
「ふぇ?」

 返答まで女の子ような沖田は、そうだ、女の子か、と彼は思った。女、か。
 意識したことがなかった。意識する必要もなかった。だけれどここの彼女はどうにもそういった範疇を、あるいは線引きを超えてくる。
 それに苛立っているのか、それともそれに別の感情を抱いているのか、などとぼんやり考えてから、どちらもか、と可笑しくなった。

「女の子が廊下走っちゃダメでしょ」
「え?」
「狼につかまっても知りませんよ」

 そう言って男は彼女の唇に触れるだけの口づけをした。

 それから足を壁からどかして、ひらひらと手を振る。
 混乱している彼女以上に、自分の思考回路が混線していることを隠すように。





「何か用事?」

 男はひどく獰猛に笑った。





 最近斎藤の機嫌が悪い、気がする、と沖田は思っていた。話しかけても普通だし、仕合を申し込んでもいつも通りだったが、何かの拍子に避けられているような、不機嫌なような気がする、と私はずっと思っていた。

「気のせいじゃろ。いっつも笑っとるしヘラヘラ新選組とか言ってたじゃん」
「ノッブには分かりませんよ」

 そう言いながら歩いているときに、視線を感じた。あ、斎藤さんだ、と思って振り返って近づく。

 そうしたら、ドンと彼は壁に足をついて言った。

「何か用事?」

 ひどく歪んだ笑顔で。





「あ…の…怒ってます?」
「なんで僕が怒ってると思うの?」

 聞かれて彼女は返答に窮する。斎藤が不機嫌な理由、怒っている理由までは考えなかった。ただ彼の機嫌が悪いように感じていただけで。
 疑問符をいっぱいに浮かべて、でも確かに眼前の彼は怒っているし、何より足で壁を蹴るなんてそんなのは怒っている人のすることだ、と彼女は思った。

「楽しそうだなーって」
「え?」
「笑うのは悪いことじゃありませんよ」

 そう言って彼はにこっと笑った。相も変わらず獰猛な笑みで。

「ただ」
「ただ?」
「人は選んでね」
「へ?」

 そう言って彼は沖田に口づけた。突然のことに混乱しながら、前にもこんなことがあった、と思った彼女に、彼は笑った。

「こんな男はそこら中にいるからさ」

 そう言うと、彼は足をどかしてひらひらと手を振って歩いていった。
 それじゃあ彼の不機嫌の理由は―――





 などということが二度ほどあって、沖田は斎藤の不機嫌、というか怒りに似たものの意味、というのを食堂でぼんやり考えていた。今日は珍しく茶ではない。ギリシャ組に遭遇したためにリンゴジュースなど飲んでいる。甘い、と思った。

「沖田ちゃん」
「ひゃいっ!?」

 そのジュースをこぼしそうになるほど至近距離の耳元に、斎藤の唇があることなんて全く気が付かなかった。気配を殺して食堂で近づかないでほしい、なんて思いながら沖田はびくっと肩を震わせた。

「ちょーっと面貸せ」
「え?」

 なんだかこの誘いは危ない気がする、なんて沖田は思ったが、気づいたときには斎藤に引きずられていた。





 斎藤の自室で、沖田はなぜか押し倒されていた。

「じょ、状況が」

 理解できません、と小さく続けた沖田に、斎藤はふと笑った。この状況がおかしいような、自分がおかしいような、と思いながら。

「沖田ちゃん、カルデア楽しい?」
「え?」

 自分以外の誰かと笑っているのを見ると、どうしてもその理由を問いただしたくなる。楽しい?嬉しい?どうして笑うの?と。その子供じみた感情をぶつけようとしているのだ、と思ったらなんだかとても可笑しかった。

「ねえ、俺以外の前で笑わないでよ」
「斎藤さん?」

 無理難題を押し付けて、それから男は唇を重ねると、舌をねじ込んだ。





「さいと、さん、息できな」
「ああ、ごめん」

 初めてだもんね、と殊更に羞恥心を煽るように言って、斎藤は口の端についた彼女の唾液を乱暴に拭いた。その姿が沖田には猟奇的に映る。

「斎藤さん、怒ってますか?」

 少しの恐怖と、大きな不安で沖田は問いかけた。怒っている、というか、不機嫌、というか、このところずっと続いているそれが、どうにも怖さよりも不安をかきたてた。
 そう、震えながら問われて、斎藤は自分は何をやっているんだ、とやっと我に返って沖田に覆いかぶさるように彼女を抱きしめた。

「ごめん」
「へ?」
「嫉妬した」

 しっと?と沖田はぐるぐるとその単語の意味について考える。斎藤さんが嫉妬?と誰に?なんてこの期に及んで思ったが、斎藤は彼女を抱きしめたまま続けた。

「信長公とか、土佐の人斬りと仲良くしてると、捕まえておきたくなる」
「ノッブたち?」
「あんまりお前が笑うから、どうにも」

 どうにも、なんだろう。独占欲の塊のようなその言葉の向こう側を、彼は上手く言語化できなかった。

「斎藤さん、寂しい?」

 そう言ってよしよしと抱き込んだ頭を撫でてきた沖田に、斎藤は、そーいうんじゃないんだけどなあと思いながらその手を受け入れていた。これだから彼女には敵わない、と思いながら。

「ね、沖田ちゃん」
「はい?」

 犯していい?と彼は自分の願望に率直に言った。





「なっんで、そう、なるんですか!」

 彼女の返答を聞くよりも前に、着物を脱がせて、ぴちゃと彼は彼女の乳房に口づけた。着やせするよな、程度の感想を抱きながら。

「いや、だから人寂しいから沖田ちゃんを抱こうかな、と」
「いみ、わかりません!」
「いやなら逃げて」

 斎藤に言われて、沖田は一瞬考える。
 笑っている自分に嫉妬したという斎藤。何度も廊下で口づけてきた彼。そうして今まさに自分を抱こうとしてる彼に抱くのは、しかし嫌悪ではなかった。

「いやじゃ、ないです、けど」
「じゃあいいじゃない」
「情緒が、ない」

 本に書いてある初めては、こんなふうじゃなかった、と思った彼女と、そういうところが好きなんだと思った彼の行く末は。





「んっ」
「大丈夫だから」

 乳房をゆっくりと嬲って、それから斎藤はそろそろいいかなと思って彼女に口づけた。それは、未知の感覚から逃がすため、という面も多分にあった。

「ふぁ」
「うん、そのまま」

 そのまま、と口づけたままで、彼は指を一本彼女のぬかるみに差し入れる。

「ひゃっ!?」
「沖田ちゃん、息吐いて」

 挿入の驚きで一瞬にして口づけていた顔を離し、不安げに見上げてきた彼女をあやすように、空いた手で斎藤は彼女を撫でる。

「だって、そんな、とこ」

 怯えたふうに言った彼女に、そうだというのにぬると愛液を零すそこに、初めてのくせに感じている、という事実に斎藤はどうにも倒錯的な感情になった。

「気持ちい?」
「わかりま、せん」

 そのままぬぷと指を差し入れる。こんなに簡単に入るなんて、と思うのが半分、指一本をひどく締め付けるそこに本当に自分のものが入るのか、というのが半分、と斎藤は思った。
 こっちは初めから挿れるつもりなんだ、と酷薄に思いながら。

 ぐち、と音を立てた秘所に、沖田は両腕で顔を覆った。

「や、へん、です。きもちい?やぁ…!」
「そうそう、気持ちいの。それから」

 未知の快楽にもうどうしたらいいか分からないという沖田のその両腕を、斎藤は取り払った。

「感じてるとこ見せてよ」

 笑って言ったそこには、いつか壁に足をついたときのように、猟奇的に笑う男がいた。





「ひゃうっ、な、だめ」
「だめ、じゃなくて気持ちい、ね」
 顔を隠したいのに、その腕は秘所をまさぐる手と逆の手で封じられていて、羞恥と快楽に染まる彼女の顔に気を良くしたように、指を増やした。

「だめ、それ、だめ!」
「駄目って言うけど、これしないと痛いだけだぜ?」

 ふとやはり笑って、斎藤は三本まで増えた指をバラバラに動かす。そうして時だった。

「ひゃっんっ、そこ、だめ!」

 彼女の感じる部分を指が一本かすめて、沖田はあえかな悲鳴を上げた。

「ふうん」

 それに斎藤は妖しく笑って、その一点を指で弄ぶ。

「だめ、なんで、いじわる」
「意地悪じゃなくて可愛がってるの」
「ちが、あっ、やぁっ!」

 ぐにっとそこを強く刺激すれば、彼女の体がびくと跳ねて、それからくたりとベッドに落ちる。

「気持ちかった?」
「わかん、ないです」

 初めて味わう絶頂に、もう何が何だか分からなくなった彼女の胎内から、ずるりと指を引き抜く。

「じゃあ、気持ちいか分かるようにしてあげる」
「ふぇ?」
「指より太けりゃ感じるだろ」

 さらりとすごいことを言って、斎藤は自身の怒張を彼女のそこに宛てた。





「挿れるよ」

 彼女の答えを待たずに、一気に貫けば、沖田は破瓜の痛みからはくはくと口を閉じたり開いたりしながら、抱き込むようにした斎藤の背中を叩いた。
 痛いと悲鳴を上げることもできないほど、痛い。
 そうして、男のそれが自身の胎内を埋めているのだ、というのが、声を上げたら何を射てしまうか分からない、と思った。

「ごめん、痛いよね」

 ぽんぽんと頭を撫でれば、彼女はやっと落ち着いたように言った。

「痛い、です」
「うん、ごめん」
「さいとうさんの、ばか」
「まあ馬鹿だね」

 笑顔に嫉妬してこんなことを始めたのに、彼女は涙目だ。確かに馬鹿のすることだ、なんて斎藤は思った。

「笑って」

 そう思っていたら不意に沖田が手を伸ばして頬に触れた。

「え?」
「だって、斎藤さん泣きそうだから」

 いや、案外楽しいですよ、と答えようとしてそれから、泣きそう、という彼女の言葉を斎藤はぼんやりと咀嚼した。彼女を抱いて、それで普段の笑顔と帳尻を合わせれば、なんていうのはひどく歪んでいる、とそこで気づいた。

「沖田ちゃん、この状況で笑ってなんて可愛いこと言うね」

 それをごまかす様に、斎藤は言って、笑った。へらへらしたそれではなく、本心から。どんなに彼女が誰かと笑っても、この、今組み敷いた彼女の姿を見ているのは自分だけなのだ、という事実から来る笑みというのは、酷く猟奇的で、それでいてひどく愉快だった。
 つうと破瓜の鮮血が伝ったのを見て、笑みはさらに深くなる。
 彼女のこれを知っているのは自分だけだ、と彼はぐっと腰を動かした。

「きゅう、にっ!」
「ごめんね、煽ったのは沖田ちゃんだからね」
「ひゃうっ、あっ、いた、い!だめ!」
「もうちょっと待つつもりだったって言い訳だけしておきますね」

 適当を言って、彼はがつがつと腰を揺らす。いっそのこと最奥を叩けば彼女がどんな反応をするだろう、とまで期待して。

「ひゃんっ!だめ、へん、です!」
「変じゃなくて「気持ちい」ね」
「だって、わから、ない!」
「そういうところも興奮するな」

 ふとそんなことを言って、彼は今度こそ最奥を自身で叩く。そうしたら、彼女の体がびくりと跳ねた。

「そこ、へん!」
「あー沖田ちゃんてば生娘のくせにここで感じるんですね」

 からかうように、いじめるようにそう言って、斎藤はくすりと笑った。そうして、それならもうこの白濁を奥の奥にぶちまけてやろうか、なんて思った。

「やっ、なにか、きちゃう!」
「そのまま感じてよ」
「かん、じ、る?」
「気持ちくなるってこと」

 笑って言って、彼はそこを強く抉った。それに耐えられないと言うように、彼女は悲鳴のような喘ぎを上げた。

「ひぁっ!」
「ごめ、不可抗力みたいなあれです!」

 その瞬間に強くなった締め付けに、斎藤は言った通りになったな、なんて思いながら彼女の胎内の奥に白濁を注ぎ込んだ。





「さいとーさん」
「なに」

 あれから意識を失った沖田の体を丁寧に拭いて、それから寝顔でも眺めるか、と裸のままで狭いシングルベッドに横になっていた斎藤は、ぱちりと目を開けた彼女に声を掛けられた。

「セックス初めてで、上手くできてましたか」
「すごいこと言うのね、沖田ちゃん」
「斎藤さんが、怒ってるから」
「怒ってるわけじゃなくてね」

 嫉妬していたんだ、という最初に伝えたそれが、ひどく気恥ずかしい。

「もう寂しくありませんか」

 そうしたら彼女はそう問いかけてきた。だから斎藤は、少し意地悪く言った。

「まだ寂しいって言ったらヤらせてくれる?」

 笑った男にぽすっと彼女は枕を投げた。