軋む
先生と呼ばれる度、「どこか」が軋んだ。その「どこか」は、心のうちにあるどこかだと知っていた。これが国のためになるのだ、と心の「どこか」を軋ませながらやってきた。
それは誰かに「先生」と呼ばれた時に軋む「どこか」と同じ場所だった。
結局のところ、その「どこか」は、自分の中の良心というやつなのだと知っていた。
だから。
田中君を捨て駒にした時、これで良いのかと問われ。私は是と答えることしかできなかった。それ以外の答えは許されなかった。
だから。
「どうして」
田中君に「分かっています」と言われて涙が溢れた。私は。上下ではなく。だから。言葉はうまく形にならなかった。
「先生などと、呼ばれる謂れも、資格もないんだ、私には」
「それでも先生は先生です」
彼は笑っていた。どうして笑えるのだろう。
「強い……な、君は……」
*
だから、このカルデアという幾分奇妙な場所で、あの聖杯戦争の記憶を持ったまま再会した彼に、どんな言葉を掛けようか、いっそ関わらない方がいいのではないかと思っていたのに。
「先生!」
「田中……君……」
彼はやはり笑っていた。どうして、どうしてなんだ。
「次こそは、最後の最期まで!」
言葉にぽたりと涙が落ちた。違う、やめてくれ、君は。
「共に戦いましょう!」
「……は?」
間抜けた声に彼はやはり笑った。
「次こそ、あなたを独りにはしない」
私たちに次が、次なんてものがあったとして、その機会を私は一度壊してしまった。
だけれど彼は、次こそは、共に在ってくれるという。共に戦ってくれる、と。
「ああ、今度こそ」
その強さが眩しくて、羨ましくて、そうしてその強さは、心の「どこか」に残っていた軋みを振り払ってくれた。
「やはり強いな、君は」
私の言葉に、彼は笑った。
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初めてまともに書いた武新が病院に入院中だったというひさめさんらしさ。
先生も田中君も考えすぎなところはあると思います。
2021/12/17
2022/3/8サイト移管