習い性
「どこに行っていらっしゃったか知りませんが、旦那様ももうお若くはないのですから、夕餉時にはお戻りになられる程度の分別は御身に着け下さいませ」
「……若くないから無理すんなじゃなくて、子供じゃないんだからって意味だよね、それ」
「そう聞こえたなら何よりに御座います」
玄関の上がり框で氷の様に冷たい笑みでそう言われて、やべぇ、なんか知らんけど時尾ちゃんキレてる……と思いながら近くの酒屋で買ってきた一升瓶を背中に隠したが一言言われる。
「お預かりいたします」
「お、重いからいいよ?」
必死になって言い訳を考えていたらはあっと大きくため息をつかれた。
「先にお客様がお見えでした。夜にまたいらっしゃると。そういったことはお伝えいただきたいのと、お客様がお見えになるのにどこほっつき歩いていらっしゃるのです、あなた様は」
「え?客?」
そんな予定ないけどなぁ、これも自分で飲むための酒だし、と思って首を傾げたら、時尾ちゃんはますます不審げに僕を見て、それから背中越しに目をやって手をついた。それでやっと人がいるのだと気が付いて振り返れば、憎たらしいほどヘラヘラした顔(僕が言うのもなんだけど)の「知り合い」がいた。
「一には勿体ない出来た嫁さんだねぇ」
「……何しに来たんです、永倉さん」
「お客様にそのようなことをおっしゃるものではありません」
ぴしゃりと妻に言われて僕はげんなり息をつく。
「散歩に行ってるって言われたから改めて来ただけだけど?その酒俺の?」
「ちーがーいーまーすー」
「まあ、街中をほっつき歩くのは新選組の習い性だわな」
仕事の癖って抜けないもんですよ?と笑いながらその人は僕の妻に言った。
何か言いたげなまま、時尾ちゃんは僕から一升瓶をかっぱらって台所に行ってしまった。
習い性に仕事の癖、と言われたままに、何も言い返せずにその人を招き入れた俺は―――
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2022/11/27
2023/10/11 サイト掲載