鬼やらい


「そういえば、節分あったじゃないですか。豆まき、マスターちゃんたちが盛大にやってた」
「ああ、あれは鬼やらい?」
「綱さんの感覚で言えばそうですかね」

 確か晦日のことだったと思うが、と思いながら鬼は外、という掛け声は確かに「鬼やらい」に似ていなくもない、と思ったのを思い出す。一昨日のことだった。

「それで面白い話を聞いたんですよ。「渡辺」が苗字の家は鬼が怖がって来ないから、やらくなていいって」
「それは?」
「綱さんが鬼切りの達人だったから、らしいですよ」

 そう言われて俺はそう言ってきた斎藤殿をぼんやりとみやる。魔性を斬るのは確かに得意だったが、鬼、となるとどうだろう。そうしてそれが後世まで残ろうとは。

「難儀だな、サーヴァントというのは」
「そうですねー。過去の逸話に縛られて、というか過去の逸話がなければ限界すらできないなんて、ヤクザな商売だと思いますよ、僕は」

 さらり、と彼はそのサーヴァントという在り方を否定した。器用な男だ、と思った。

「斬れんよ、鬼など」
「そうですか」
「首の一つも、斬れはしないさ」

 ぽつりと言う。羅生門には美しい鬼がいた。―――その首を欲しいとも思わなんだ。





「ひーどーいー」
「まあ鬼系サーヴァントとしては看過できないですよね」

 そう言いながら茨木童子さんは福豆をぽりぽりと食べている。鬼なんて関係ないな、なんて私は思った。

「美味いから許すが、このような豆で吾は追い出せぬぞ!」
「でしょうねぇ」

 節分は二日前で、残ったお菓子類を日本のサーヴァントで食べている時だった。

「それやったら酒の方がええんとちゃう?」
「酒呑、それはやめろ!」

 酒呑童子さんが楽しげに言ったそれに茨木童子さんは噛みついた。大江山の征伐話、か。

「ああ、そういえば。面白い話を聞いたんですよ」
「へぇ?」
「「渡辺」姓の家には鬼が怖がって来ないから、豆をまかなくていいって。綱さんの伝説らしいですよ」
「ふっ、ふふふ、またおかしな話。どない、茨木」

 ああそういえば、と思う。綱さんが「斬った」と言われる最大の鬼は茨木童子さんだ。このカルデアにはあまりにもこういった因縁や因果が多すぎる。

「吾が綱を恐れるなどあり得ぬ」

 激昂するかと思った茨木童子さんは、どこか遠くを見るようにぽつりと言った。

「吾の首を取れぬ臆病者など、知らぬよ」

 小さく言って、彼女は豆を口に放り込んだ。

「吾の首さえ欲しがらぬ、欲のない臆病者など、知らぬよ」

 その横顔は、いつもの幼さが鳴りを潜め、冷たく、そして美しかった。




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取ったのは腕なんだよな、と。首を取るには至らなかった二人の話。

2021/2/4
2022/5/14 掲載